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ⅩⅧ ここはとても寒いから
「※」
「総量が増えたって」
しおんが聞く。
「みんな、死んだ」
僕は答えた。
ふたりとも僕の答えをわかっていたみたいで、取り乱すことはなかった。何かがおかしいとわかっていたんだろう。
「この少人数で一人の魔女が死んだとき、総量から供給される魔力の分配は膨大に増える、だから僕たちの体に影響が出てる」
自分の声が自分から出てないみたいだ。かってに口が言葉を話してるそんな感じ。
「見てくる」
のばらは唇をかみしめて戻ろうとする。それを手をつかんで止めた。
いつも冷静なのばらの目が揺れてる。びしょびしょに濡れた肌はすぐにでもとびだせる獣みたいにあったかい。心拍数が上がっているのだ。
「みんな死んだんだ。わかるだろ。魔法をここまでつかってきたのばらが一番わかるはず。ここまでさんざん魔法を使ってきたのに魔法の力は強まるばかりで、全然枯渇しない」
のばらは無言のまま僕を振り払ったけどそのまま動かなかった。
「なんでかきつばたはこの違和感のことすぐわかったの?」
しおんはつとめて冷静に僕に聞く。なにも考えたくなくて目先の疑問を口にしてるだけかもしれない。考えないために、とりあえず頭を切り離して、自分の口だけを動かしてる。僕と同じだ。
「そういう魔法だから」
自分の声がなんども耳元に聞こえる。一番見たくなかった場面のここで、なんどもなんども。
「魔法?」
これはいつの、どこできいた疑問だ。夢なら覚めてくれ、今度は、今度はちゃんとした夢を見るから、ぜったいに、みんなを死なせないから。
「やっぱり、かきつばたも魔法を使えたのね」
二人とも今まで黙っていた僕を責めない。結局能無しの僕の魔法。
「何の魔法?」
「予知」
「予知?」
「正しくは予知夢。予知自体は大きすぎて使えない。だから未来の夢を見る」
魔法を使えるようになってからたびたび見た夢は施設の中のみんなの夢ばかりだった。自分で見る夢は選べない。それがどこでいつの夢なのかを起きたらいつも考えていた。
「もしかして、かきつばたは、この状況を夢見たの」
夢で見たことはちゃんと対処すれば回避できる。それはわかっていた。だから小さな危険は注意して避けることが出来た。でも、大きな流れは変えられなかった。
「どうにもできなかった。みんな死ぬってわかってたのに、あの男が来てから、劇的に状況が悪くなることも、知ってたのに、みんなを死なせた。僕の魔法が使えないばっかりにみんなを見殺しにした」
こうなることを、みんなに話すことも考えた。でも何度、修正をしても、この場所にたどり着いてしまう。いろんな危険がたくさんあって、どうしてもサムに魔法がばれてしまう。みんなが希望を持って頑張っているのに死ぬということを話すことはできなかった。
「ごめんなさい」
のばらが今度は僕の手をつかむ。そして精一杯引いて僕の体は彼女の胸に抱き寄せられる。彼女のあったかさが伝わる。夢では味わえなかった体温がこれが現実だって伝えてくる。
「あやまらなくていい。ごめんなさい。ずっとつらい思いをさせていて気が付かなかった」
のばらが必死に僕を抱きしめてくれる。暖かい両手で、指が僕の背中の皮膚に食い込むぐらいに力強くつかむ。彼女の思いがじんじんと心臓の中に入り込んいく。
僕はのばらの肩をつかんだ。ゆっくりとのばらを引き離す。
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