ⅩⅧ ここはとても寒いから

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「もう一つ、謝らないといけないことがある」  いつのまにか涙を流している。大粒の雨でそれは流されて自分だけ泣いているのがわかる。二人にわからなくてよかった。泣いている場合じゃない。甘えてはだめだ。みんなに話していたら回避できたかもしれないという未来をつぶしたのは僕の判断だ。結局死んだみんなへの僕の罪は消えることはない。それに、僕はまだ言わなくてはいけないことがある。僕にはのばらに抱きしめてもらう権利はない。 「のばら、ここで、僕と心中して」 「まって、なんで」  のばらより先に、しおんが声を出していた。 「しおん、ごめんなさい。しおんは一緒に心中できない」  彼女はたいした魔法が今まで使えなかった。それにいじけながらも、たびたびバラけそうになるみんなの話を聞いて支えてくれた。優しくて入ってきたころからずっとみんなのお姉さんだ。みんな彼女を慕ってるし、だから、僕も彼女に今からひどいことを言えるのかもしれない。 「しおんにはやってほしいことがある。魔力には総量がある。使える魔法はその人の素質による。素質があってもその時の魔女に配分された魔力以上に大きな魔法は使えない。使えない魔法を使うには、配分を大きくしなければ、そのために、魔女を間引きする」 「まって、」 しおんの静止を僕は聞かない。 「しおん、大きすぎる魔法って言うのは、自分で自由には使えないけど、限定的には使える。予知は夢の中でだけ使えるみたいに。しおんの魔法は時間遡行。しおんの魔女になってからの記憶の良さは、時間遡行によって聴覚だけがさかのぼっていると仮定した。だから、僕たちが死んだあと、すべての魔力を使って、時間をさかのぼって、僕たちを魔女にしないようにして」  しおんの魔法は耳でも記憶でもない。この仮説には自信があった。しおんは自分の魔法に自覚がないけど、そんな魔女はいない。魔法は必ず自分にしっくりと来るものだ。なぜならそれを一度は願ったことがあるから。僕がここに来る前に、いつになればあの狂った女から離れられるのか知りたいと切望したように。魔女は絶対に自分が魔女だと言える魔法が使える。素質がない人はいない。それがどんな願いでも、願わない人間なんていないのだから。 「これが最後の糸。この施設に入った時点で僕たちはどうしても、魔女だとばれてここから出られずに死んでしまう。魔女にならないこと。それだけが生きる道だ」  何度も予知夢を見たのに、僕の夢はここから先の予知をしていない。それはここで僕の未来が終わるということだ。
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