ⅩⅨ 少女たちへ

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ⅩⅨ 少女たちへ

「○」 ごうごうとあたりが強く燃えてあっという間に消えた。二人分の場所だけ草はなくなり、土の地肌が見え、黒い灰が水たまりに浮く。それもすぐに雨に流された。  二人は一瞬にして跡形もなく燃えた。  一人になってしまった。  どう考えても、わたしたち三人でここからさき生き延びていくという未来が描けない。だから二人が心中したのは仕方がなくて、本当はわたしも一緒に連れていってほしかった。もう、気力がない。それでも、魔女になってからたった一人で苦悩して頑張ってきたかきつばたの願いを否定したくない。だから、もしの話はしなかった。二人が希望を持つためならわたしは一緒にいけない。それがわたしの精一杯の二人への愛情だった。  みんな死んだ。あるのは、かきつばたがこの終わりを苦しんでいた中、すがった魔法だけだ。  魔法が成功しても、彼女たちは死んだのだ。生まれ直した彼女たちは、それは彼女たちなんだろうか。  わからない。それでも、そんな魔法に意味はないなんて言えない。みんなが大好きだった。ここまで守られてきた。みんなでみんなを守ってきた。 「また、会おう」  さっき二人に言った言葉をくりかえす。自分の残っている気力、全部で絞り出した言葉だった。また、会う。絶対に。悪い夢のこの世界を終わらせて、わたしたちはもう一度会う。  魔力がみなぎる。すべて魔力は強くて、何でもできそう。それでも独り占めしないで、みんなで分け合って、おごることなく魔女たちは暮らしてきたのに、もうこの世界にはわたししか魔女はいない。 すべての魔力の総量を使ってやっと使えるわたしの魔法。それはとてもしっくりくる。 「わたしが生まれる少し前、最後の魔女のもとに、わたしをつれていって」  目を開けるとわたしは森にいた。遠くで何かたくさんの音がし、火が燃えている。さっきまでの景色がフラッシュバックする。強いめまいの中で駄目だったと強く思ったら、目の前には足をひきずりながら逃げる女がいた。 「まって!」 女はわたしに気づいてぎょっとした。 「だれ、もう、魔女はいないはず」  女は魔女の伝承の通り、大きな黒いローブに、三角帽子をかぶっている。最後の魔女、ウルスラは、妙齢の女性で飛ぶ魔法を使う。黒髪で真っ白な肌の女。目が合った彼女は出回っていた似顔絵通りの顔だった。 「わたしは、未来から来た魔女よ。あなたに最後の魔法を使わせないために来た」  なんのことかわかるだろうか、それでも手短に伝えないといけない理由がわたしにはあった。 「時間遡行?」  ウルスラはたちどまり、わたしを待ってくれた。わたしの体を上から下へと見るとせせら笑う。 「神話レベルの魔法ね。あなた死にそう。それぐらい大きな魔法なんだわ」  たった一度の魔法だけど、魔力を使い切ったのがわかる。時間を移動してきたからか、総量からの魔力の供給がない。魔力の供給がなくなると魔女は死ぬ。自分の命の火が燃え尽きそうになっている。 「何しに来たって?」 「あなたは、もうすぐ死ぬ。そして、自分が死ぬ瞬間に生まれた子供を魔女にするという魔法を使った」 「そんな魔法があるの?」 「現にあなたは使い、わたしたちは魔女になった」
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