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友
「晴夜!いい酒を持ってきた!
すごい美味い酒だ!」
数日後、僕は飲んだこともないような高級な日本酒を買って晴夜のマンションに行った。
晴夜が言ったのは「一番好きな酒」であり「高級な酒」ではない。だが、それだと僕の気がすまなかった。
晴夜と何年も一緒にいて鬼の話も聞いていたのに、よりにもよって鬼に騙され、喰い殺されそうになっていたなんて自分が情けなかった。
箱から日本酒を開けた晴夜の手が止まり、僕の顔をじっと見た。
僕が黙って頷くと、晴夜は「一緒に飲もうか」と言った。
「ほんと見る目ないよな。
良いなと思った子が、鬼だったなんてさ。
見た目の可愛さに騙されてさ。
ほんっとバカだよな」
僕は恥ずかしさを隠すように、早口で捲し立てた。
「いや…本当に上手く化けていたよ」
と、晴夜は言った。
(哀れだ…。
自分の愚かさを痛感する)
晴夜が優しく慰めてくれればくれるほど、僕は自分が嫌になり顔を上げられなくなった。
「一樹。
人間とはな、狂えば、とても恐ろしい鬼になる」
と、晴夜は静かな声で言った。
「僕…は…何も分かっちゃいなかったんだ。
何も…」
「一樹が、彼女の事を話してくれたから、私は鬼を退治できたんだ。一樹でなかったら、誰も気づかずに、別の誰かが喰べられていた。
彼女も、ずっと鬼の姿でいる事を望んではいなかっただろう。彼女も狂わされたのだろう…終わらせてやらねばならない。
一樹は、誰かの命と彼女を救ったんだ。
それでいい。もう、それ以上は、何も言うな」
晴夜はそう言うと、泣いている僕の肩を抱き寄せた。
晴夜からは全てを忘れさせてくれるような…かぐわしい花のような香りがしたのだった。
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