出会い 下

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出会い 下

 翌日、僕は同じ時刻に公園へと向かった。  昨日と同じようにベンチに男の子が座っていることを願っていた。  けれど公園には誰もいなかった。  僕は公園の中に入ろうとしたが、イチョウの木が目に入ると足が動かなくなった。  小鬼は、もういない。  そんな事は分かっていたが、僕は外から公園の様子をしばらく伺っていたが、水筒のお茶が空っぽになると家へと帰ることにした。  次の日も、そのまた次の日も、同じように公園へと駆けて行ったが灰色の瞳をした男の子の姿を見ることはなかったのだった。  数日が経つと、照りつける太陽がみせた幻だったのではないかと僕は思うようになった。  人間離れした男の子と不自然な枝と幹。  最近あまりにも暑いから頭がどうにかなっていたのだろうと思いながら、僕はベッドに入った。  明日はもう公園には行くのはやめて、読書感想文の本を買いに行こうと決めた。布団を頭まで被ると眠たくなってきたので目を閉じると、黄色く色づいたイチョウが舞い散る世界で「誰か」と仲良く話をしている夢を見たのだった。  次の日、僕は本屋で購入する本を手にしながらウロウロ歩き回っていた。この本屋は小学生の頃から利用していたが、来月閉店するので名残惜しかった。  絵本や漫画のコーナーを歩いてから、父が読むような小説のコーナーに着いた時だった。 「あっ…」  僕は思わず声に出した。あんなに探していた男の子が目の前に立っていたからだ。  静かな本屋の中で僕の声は響き渡り、男の子は声のした方を横目で見た。 「あの…ずっと探してたんだ」  僕は近付いて行き声をかけると、男の子は手に取っていた本を本棚に戻した。 「出ようか?」  男の子がそう言うと、僕は慌ててお会計をすませて男の子と一緒に本屋を出て行った。  本屋を出てから横断歩道を渡り、少し歩いてから階段を降りて川沿いを歩き、日陰となっている橋の近くで男の子は立ち止まった。  ここは春になったら、桜が綺麗に咲く。  今は真夏で太陽が高く昇っているから人は少ないが、夕方になるとジョギングや犬の散歩をしている人で多くなるのだった。 「鬼って、本当にいるんだね」  僕は話したいことがいっぱいあったのだが、胸がいっぱいになっていて出てきた言葉がそれだけだった。  男の子は少し驚いた顔をして僕を見た。 「凄いね!  本当に、人には折れた枝が当たらなかったんだよ!  僕、びっくりしたよ!」  僕はそう言うと、じっと僕の顔を見ている男の子に構わず一気に話し出した 「ベビーカー連れの人に、お礼言われちゃってさ。  僕は何にもしてないんだけどさ、なんかアメコミに出てくるヒーローにでもなった気分だったよ」  僕は興奮しながら言った。   「君は…信じてくれたんだ。  私が術を施していたとはいえ、2人の命を救ったのは私ではなく君だよ。  君が、救ったんだ」  男の子は真っ直ぐに僕の瞳を見つめながら言った。灰色の瞳は僕を讃えてくれるように光っていた。 「あっ…ありがとう。  僕、一樹って言うの!  名前は?」  僕は少し赤くなりながら言った。 「私の名は、その人によって変わるんだ」  男の子は真面目な顔でそう言ったが、僕の頭の中には沢山の疑問符が浮かんでいた。  それが、僕達の出会いだった。
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