夜風はいつだって矛盾している

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「未成年が夜中にウロウロすんな、補導すっぞ」  家を飛び出して10分もしないうちに、ガラの悪い男に声をかけられた。 「オッサンこそ、未成年淫行罪で捕まるよ?」 「……声掛けただけで?」 「オッサンと女子中学生って、会話したらもう成立してる」 「何がだよ?」 「有罪が」 「おいおい、おっかねぇこと言うな。俺が、やっさしー、まっとうなおじさまだったら名誉毀損(めいよきそん)だぞ?」  真夜中の公園に、ちょっと来いとひっぱられた。  ひかる街灯の下、咥えタバコをした髭づら。口端からもくもくと白煙が昇ってゆく。どう若く見ようと思っても、30代後半で、それはつまり紛うことなきオッサンで。黒地に金の装飾が施されたジャージは、虎のよう。 「……ほっといてください」 「いや、ほっとけねぇから、ここに居るのよ」 「……何が目的?」 「うーん。……ぶっちゃけて言うとね、俺、人身販売(ひとさらい)してんの。だから、売れ筋ランキング2位のいたいけな女子中学生でも入荷しようかなー、なんて」 「なんで、2位?」 「そりゃあ、1位は女子高生だろーが」 「……有罪がすぎる」 オッサンはタバコを掴み、変な日本語使うな、と、冷えたアスファルトに押付けた。じゅっと灯りが消える音。白んだひかりにうかぶオッサンは胡散臭いけど、怖くはない。ふてぶてしいなれなれしさと、悪びれもない口調は、野蛮な温かみを感じて、カタブツなお父さんと正反対だ。 「さらってもいいよ」 オッサンは一瞬だけ目を丸くした。そして、煙草を胸から取り出した灰皿に片付け、隣のベンチに腰かけた。じわじわ距離をつめる系かな。相手の警戒心を解いて、油断した瞬間に捕獲!みたいな。それなら、プロだな、プロ。 「……では、ひとさらいは女子中学生のお悩み相談でも、うけましょうかね」 「よだか」 「え?」 「わたしの名前、よだかっていう」 「へー。いい名前だな。じゃー、俺は夜風。どうだ、素敵だろ?」 絶対、今、てきとうに考えた名前だ。 「一周回ってダサいね」 「……思春期だなぁ」
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