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第1話-①
前に立つ眩しいほどの白衣越しに、ドアの横で柔らかく光を反射するプレートをちらりと見た。書かれている名前はすでに知っているのに、中身が取り替えられる度、改めて見てしまうのは長年の癖だ。元ははっきりと光を反射していたプラスチックの表面は擦れて黄味を帯びている。
医師がドアをノックすると、中から「はーい」ときらきらとした陽射しのような声がした。
彼に続いて部屋に入る。
「こんにちは、体調はどうですか?」
「うん、大丈夫」
肩を少し過ぎたくらいの艶やかな髪。それとは対照的に、色素を全て髪に取られてしまったのかと思うほど白い肌。
小柄な少女がそっとベットの中に座っていた。
黒曜石を思わせる髪と瞳に、陽が射してきらりと光る。
「今日からこの方が先生になります」
医師が僕を振り返ったので、静かに彼と並んだ。
この医師は三十代後半、まだ若いがしっかりしている。誰に対しても彼は分け隔てない。僕にも幼い少女にも丁寧に接するところは、彼の好感を持てる部分だ。いや、少女と言ってもカルテの年齢を見るに中学生か。そう呼ばれるのはもう好まないだろう。
そんなことを思いながら、自己紹介をする。
「はじめまして、亀山です。今日から君の先生です」
何度もそうして来たように、右手を差し出す。けれど彼女は握手に応えなかった。
「下の名前は?」
ああ、と頷く。医師と違って僕は名札を提げていない。
「うん、すまなかった。亀山功児。成功の功に、児童の児」
「そう、よろしくね。功児先生。もう知ってると思うけど私は兎本心音。よろしく」
そう言って彼女は今度こそ僕の手を握った。小さくて華奢な、ほんの少し熱い手だった。
「では、あとはよろしくお願いします」
病室を後にする医師に一礼して、彼女に目を向けた。
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