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第1話-②
失礼、と言って椅子に座る。
「先生は、どうして私の担当に?」
「前集中して見ていた子が亡くなったんだ。それで、今度は君に」
ここは特別な事情を持つ人たちが集まる病院だ。主に心臓の疾患。
僕は先生と言えど医師ではないし、教師とも違う。勉強はある程度教えられるが教師ほどではない。
「学びたいことがあれば言ってくれ。わかることなら答えるし、わからなければ一緒に調べよう」
「わからないことなんてあるの? 先生でしょ?」
「教員免許は取れなかった。それでも教師の真似事がしたくて、ここで少しばかり教えてる」
「ここに住んでるの? お給料もらって?」
「給料はもらっていない。住まわせてもらっている分、働いてるって感じかな」
僕はかなり特別扱いしてもらっている。ありがたいことだ。
「僕について他に聞きたいことは?」
「年齢は?」
「いくつに見える?」
「さっきの先生よりは上でしょ?」
「まあそうだね」
さっきの医師のことだろう。
「四十歳になるかならないか?」
「そんなところだ」
「当たり?」
「そのくらいだと思ってくれていいよ。さて、僕の今話せる自己紹介はこのくらいだ。話すことは後々話そう。君の自己紹介を聞いてもいいかな。話せる程度で」
「自己紹介って、もう知ってるでしょう?」
「君の自分の言葉で聞きたいんだ。事務的なものじゃなく」
カルテにちらりと目をやる。彼女は一つ頷いて話し始めた。
「名前は兎本心音。心音なんて、皮肉よね。両親には言わないけど」
「僕は素敵な名前だと思うよ」
「ありがと。……見ての通り、心拍数が高すぎるの」
彼女の隣にある機械にはその心臓の動きがグラフとして刻まれていた。僕から見るそれはあまりにも流れが速い。
「普通は一分に六十から七十回が普通なのに、私は百三十から百五十回。これでも薬とかで抑えてるのよ。だから普通の生活はできないし、それに、私の寿命は十五年行くか行かないか」
悲しげな表情をしながらも淡々と話す。
「知ってる? 生物は大抵二十億回心臓を動かすと死ぬんだって。だから私は、当然寿命が短い」
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