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そう話すと桂山は、うーん、と視線を斜め上にやった。
「たぶん外れない風俗を紹介することはできますよ」
「えっ……」
晃嗣は何やら目の前の男性が恐ろしくなってきた。トップセールスの桂山ならば顔は広いだろうが、この会社の得意先に風俗店があるとは聞いたことがない。彼は机の上に置いていたファイルを開き、後ろのほうのポケットから青い色の名刺を1枚出す。
「完全会員制で一見さんお断りの高級デリバリーヘルスです、この人が経営者で、個人的によく知っています」
春の空のような青い色の名刺には、Diletto e Martir という店名らしきアルファベットと、神崎綾乃という女性の名前、そして電話番号が書かれていた。
「彼女は医師で、平日は夕方まで病院にいますので、20時以降に連絡してください」
「かっ、桂山さん」
仰天した晃嗣は思わず腰を浮かせた。机が少し揺れて、スプーンが皿の上で音を立てた。
「こんなところでゲイ専風俗を俺に紹介するなんて、どうかしてるんじゃないですか?」
桂山はそうですか? とあっさり言った。
「ここの男性スタッフなら、今の柴田さんを癒してくれそうに思えたんですが」
「あなたこの店から何かキックバックされてるんですか?」
晃嗣は思わず問い詰める。元営業担当として、場合によっては桂山の言動に問題があると感じたからだ。桂山は口許をふわりと緩めた。
「そうですね、大きなキックバックをいただきました」
「はぁっ?」
「……私のパートナーはこの店のスタッフだったんですよ」
晃嗣は言葉を失う。桂山はにっこりと笑った。おそらく女が見ても魅力的だと感じそうな笑顔だったが、晃嗣はちょっと空恐ろしい。こんな大きな会社のトップセールスなんて、やはり普通の人間ではないのだと思った。
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