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麗華は宛がわれた部屋で一人窓の外を見上げた。月が半分だけ現れていて、花淑が婚約の喜びの手紙を寄越してからそう経っていないことを思い起こした。
(あんなに喜んでらしたんだもの……。これが正解なのよ)
洞のある森が遠いこの場所でそう思っていたところへ、扉がトントンと叩かれた。こんな夜に誰だろうと思うと、麗華? と華奢でかすれた声が扉の外から聞こえた。もしかして……。
「お姉さま!?」
麗華は扉を開けてそう叫んだ。扉の外には麗華と同じ色の瞳をした少女が居た。この人が花淑だ。
「麗華……!」
花淑は麗華を抱き締めるとその肩に顔をうずめた。そうして悲しそうに首を振る。
「私の手紙は読んだ? 無理をして来たのなら、今からお父さまにお話して、貴女をおうちに帰してあげるわ」
心配した通りだった。花淑は自分の恋を殺して後宮に行こうとしている。
麗華は花淑の肩に手を置いて真っすぐ花淑の瞳を見た。翠の瞳に映る自分は花淑に比べるとどうにも子供くさくていけないが、これだけははっきりしている。
「私、お姉さまのお役に立ちたいんです。今まで手紙で元気づけてくださったことのお礼も言えてませんでした。だから、私のことを思ってくださるなら、どうか子威さまと幸せになって頂けませんか?」
そんなこと……! と悲壮な顔をする花淑に、それにね、と麗華はいたずらっぽく笑った。
「私、あんな町で貧しい暮らしをしていたから、後宮なんていう立派なところに行けるのも、楽しみなんです。きっと、家で食べたより美味しいものが食べられるわ」
花淑は麗華の言葉に一瞬ぽかんとし、それから弱く微笑んだ。
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