星は五度、廻る

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「あの頃はまだ子供で、子供の読みしか出来なかった……。それがあの子の命を奪ったかもしれないと思うと、もう一度会えたら今度こそちゃんと読んであげたいという気持ちが芽生えて……、それで練習に励んできました……。 頂いた鏡を見て、絶対にあの子は死んでないって信じようとしてました……。毎年あの日にあの場所に行って、会えなかった時に、もうこの世に居なかったらどうしようって思ってました……」 毎年森の草原近くのあの木の洞を訪れては日暮れに肩を落として帰って来た。その時間が終わろうとしている。 あの日、あの洞で少年の目を見つめた時の鼓動が蘇って……、いや、それ以上に麗華の心臓は明星を前に激しく打っていた。 「……こんな形でお会いできるとは思いませんでした……」 こうべを垂れると、明星が麗華の頬下にそっと手を触れた。顔を上げるよう促されて上げると、透明な黒の瞳に捕らわれる。 「結果として約束は果たせなかったが、私も麗華殿とこうして会えて、心から嬉しく思う」 明星は穏やかに微笑むと、麗華に顔を寄せた。顔が近づいてきたので、恥ずかしさに麗華がぎゅっと目を瞑ると、ちゅ、と小さな音がして瞼に湿った感触が残る。……以前もやられた。これは……。 「……っ、……明星さまは星羽さまの姿で、私を揶揄われていたのですね……」 自分に女知音の気があるのかと悩んだあの時間を返して欲しい。そう思っていると、明星は優雅に微笑んだ。 「麗華殿を揶揄う意思などこれっぽっちもないぞ。……全て、本気ゆえの行動だからな。……麗華殿が嫌でなければ、私は立位したのち、麗華殿を后に迎えようと思っている」 意志の強い黒の瞳が麗華の翠の瞳を見据えた。そんな未来まで描いてくれただなんて、心が震えてしまう。 ……でも麗華は明星に伝えてないことがあるのだ。その未来はない。 麗華は星羽が明星だと名乗ってから初めて、俯いた。 「……明星さま……。私は后になることは出来ません……」 俯く麗華に明星は、何故だ、と問うた。 「……申し上げていなかったのですが、……実は、私は双子の姉妹の妹です……。忌子なのです……。そんな人間が、后になんて、なれません……」 明星から求められて確かに嬉しいのに、明星と共に歩む未来がないことが悲しい。麗華がうつむいたままで居ると、明星はこう言った。 「双子の末子が忌子だという迷信も、もうそろそろ捨てても良(よ)いと思う。現に麗華殿は私の星を読むことで私を救ってくれた。……詞華国の未来を切り開いてくれたのだ。そんな貴女が忌子である筈がなかろう?」 「明星さま……」 明星の言葉に麗華は思わず顔を上げた。穏やかに微笑むその笑みは、後宮に入ってからずっと麗華に向けられていた笑みだった。 「麗華殿、もう一度問う。私の、后になってくれないだろうか……?」 真剣な瞳に、この人について行くと決めた。 「はい、明星さま……。ずっとお側にいることをお約束致します……」 麗華が答えると、陽の日差しのような笑みが返った。五年前に見た少年の面影が、其処にはあった……。
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