333人が本棚に入れています
本棚に追加
「娘に花淑さまより手紙を預かってきた」
顔を渋面にしてそう言う男の手には、確かに朱家からの手紙があった。それを見て麗華はぱっと顔を輝かせた。
「お姉さまからね! 手紙を頂戴!」
そう言って、男から手紙を奪う。男は忌々し気にこう呟いた。
「花淑さまのお気が知れない。忌子になんの慈悲を懸けられるのか……」
「貴方のお仕事はこれで終わりでしょ! 帰ってお仕えでもしていたら? わざわざ聞えよがしに言わなくても良いじゃない」
そう言って麗華はぷいとそっぽを向いた。男も長居するつもりはなかったのか、渋面を崩さずさっさと店から出て行った。老師がため息を吐きながら言う。
「麗華、捨てられた恨みはあろうが、不遇を人に当たってはいけない。双子の末子は普通だったら生まれ落ちた時に命を絶たれるものなのだよ。それを生かしてもらえたのだから、慎ましく生きていきなさい」
老師の言葉に流石の麗華もしゅんとなるが、ああも忌々しく自分のことを扱われると、地道に生きているだけなのに、何が悪いのかと文句を言いたくなるのだ。
――『ただ、生きているだけで邪魔なんだそうだ』
そう言えばあの子は確かにそう言っていた。あの時、彼をかわいそうだと思った気持ちの根底には、きっと自分が受けてきた不遇も所以していただろう。
(私は生きてる。五年目もあの場所にこなかったあの子は、生きてるかしら……)
ふと、そんなことを考えた。
最初のコメントを投稿しよう!