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お粗末な泥棒
その男は、全身が黒ずくめの服装を身に着けて住宅地へやってきた。真っ暗闇に包まれた夜間は、彼にとって絶好の稼ぎ時である。
「よし! 誰もいないようだな」
足元に気をつけながらそっと歩みを進めると、ある1軒の家屋が目に入った。泥棒にとって都合の悪い監視カメラの類はどうやらなさそうである。
玄関の前へくると、その男はすぐに鍵穴に針金を差し込んで開錠を試みている。しかし、何度やっても玄関の鍵をあけることができない。
「おかしいなあ。他のところだったらすんなりできたはずだが……」
幸いなことに、玄関のドアは何とか開錠することができた。しかし、同じところにずっと留まるわけにはいかない。
ドアを開けたその男は、家屋の中へ音を立てずにそっと足を入れた。すぐに仕事に取り掛かろうと、黒い靴を脱ごうとしたその時のことである。
「げげっ! 赤色灯が回っているとは」
彼が油断していたこと、それは玄関口の真上に赤色灯がけたたましい音とともに回っていることである。往年の刑事ドラマを彷彿とさせるような音が鳴り響く様子に、その男は慌てて家屋から外へ逃げ去った。
しかし、その家屋に浸入した痕跡を残したことが大きな命取りとなるとは思っていなかったようである。結局、その男は警察によって住居侵入及び強盗未遂の疑いで逮捕されることとなった。
その男が忍び込もうとした家屋の住人は、この界隈では有名な警察マニアとして知られていた。警察マニアが住んでいることを知らずに侵入したこともあり、SNS上では彼のことをお粗末な泥棒として嘲笑の的になってしまった。
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