1.総長とのばらさんと領主様と、僕

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「反省文ひとつ書くのにどれだけかかってるんだか」  総長は大袈裟にため息をついて見せる。 「どう思います。全く反省していないということだと思っていいですかね」  僕にどう思うか聞かれても困るんだけど、 「いいえ、多分、反抗ではなく、どう書いても先生が納得なさらないのをのばらさんもわかっていて、困ってるんじゃないかと」 「そんなことはないです。きちんと弁明できればそれでいいですし、自分が何をしたか、何が悪かったか、それくらいはわかるでしょう。ただそのまま書けばいいだけです。そして今後もうしません、だけでよろしい。それ以上は言葉だけになりがちですから。綴り方を習いはじめたばかりの子供でも五分で終わるはずです」 「のばらさんは、多分自分でも自分がすることの理由がよくわかってないというか」  のばらさんの悪口を言いたい訳じゃないから困るんだけど、庇おうとしても悪口のようになってしまう。総長は真面目な顔で僕に向き直り、 「それがわからないですね。城の焼却炉で鍋を爆発させて、その振動で食堂の食器棚の陶器の皿を二十三枚割って、鶏が一羽も卵を生まなくなったって、どういうわけでそのようになるのか、本人以外誰にわかりますか」 「……のばらさんにお怪我がなかったのは幸いです」 「高温炉が壊れて、番人が怪我をしたのは実験とやらを阻止できなかった彼の職務怠慢のせいとはいえ、犯人が怪我するより痛いですよ。全部外注すれば余計な金がかかります」  それで僕はもう何も言えない。この総長は金にうるさい。領主様もお気の毒に、今回のことで総長に怒られた。のばらさんを野放しにしすぎだって。領主様の子供の頃からの師匠だから、領主ですら総長に頭が上がらないのだ。 「あの子は実家に返す方がいいんですかね」  時々言う誰に向けてのものかわからない嫌味は本気でもあると思う。見捨てるとか、思ってもないことを気軽に言うのもよくないけど、本気で思ってるらしいのを端から見てるのもしんどい。本当に、のばらさんの幸せを考えてのことなのかもしれないけど。
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