1.総長とのばらさんと領主様と、僕

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1.総長とのばらさんと領主様と、僕

 僕は子供だから、な。言うことが大人びてるって言われることもあるけど全然そんなことはない。むしろ子供っぽい。すぐ気が散るし、わがままだし、いいかげんだ。でも、大人の顔色はちゃんとうかがってる。子供は大人に絶対かなわないからね。弱いふりもするし、強いふりもして、生きてかなきゃならない。  薬草を逆さに吊した乾燥小屋の中は、草が盗まれないようにというのと、きれいにしていないといけないからというので人の出入りが制限されている。総長が神経質だから、悪いものを呼び込まないように、汚れた空気を連れて来ないように、靴の泥すら落として入らないといけない。だから大声を出す人もなくて、しんとした冷たい空気がいつもそこを支配している。ありふれた草だけど、イラクサが若く柔らかいのは今のうちだけだから保存のために乾燥しておくそうで、皆が摘んできた草がたくさん天井の方に下がっている。こんなにいっぱいあると変な匂い。僕は草について無知だけれどその辺にあるものに不用意に触らないように気をつけている。総長は乾燥の具合を点検して、特にこれといった感情も表さない声で、問題ない、とだけ言った。 「それで、午前中までに彼女から返事は」  総長は僕の方をちらっと見る。機嫌は悪くなさそうだけれど、見た目で総長の本心はわからない。 「昼までにお返事が来ていません」  僕が総長を見上げてそう言うと、ようやく眉をひそめた。ああやはり、怒っている。 「どういうことでしょうね、十分猶予をあげたんですが」  声は静かだ。 「じゃ、僕が行って催促してきます」 「君が行かなくてもいいです。君が現れたらもうおしまい、ということですからね、通常は」  総長がそう言うのは、裏の仕事で約束を守らなかった者に最後通告を出す時の使いが大抵僕だというだけで、本当に僕が誰かに引導を渡すとかいうことじゃない。のばらさんは「裏」で使う予定みたいだけど普段は「表」の方のひとだから、裏側の僕が気安くあの人の周りをうろうろしては都合が悪いと総長は思ってるんだろう。総長の命令ならどんな仕事だって行ってくるけど、僕は今のところあまり有名になっては困る使い走り、隠密、といったところだ。いや隠密は言いすぎた。
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