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僕はもう一度、目を凝らして人影を探したが
非現実的な美しい白い輝きが一本、水平線を引いているだけだった。
その夜、夕食は旅館の宿泊客、合同のバーベキューだった。
誰もが手話で話しかけてくる。
誰とでも、気兼ねなく話ができる。
僕は夢中で会話を楽しんでいた。
そこへ、カゴいっぱいのとれたての海の幸を
両手いっぱいに抱えて旅館の子がやってきた。
海辺の女の子とは思えない程の白い肌と
潮風に焼き付く事もなかったのだろうかと思わせる
長く柔らかそうな髪が薄いリボンでひとまとめにされている。
僕の視線に気がついた彼女は
なんとなく隣に腰掛けたので
僕たちはなんとなく微笑みを交わした。
彼女に名前を聞くと
美しい海と書いて『美海』と教えてくれた。
美海と僕の指は
途切れる事なく宙を舞って会話を交わし続けた。
楽しそうに笑う美海がたまらなく可愛らしくて
顔も指もひとつの動きも取りこぼす事なく見ていたかった。
今にも消えてしまいそうな美しさが
ラフな服装とアンマッチなのに
引き締まったボディラインがなせるのかとても似合っていた。
ふと、僕は美海の腰の短剣に目を止めた。
『それは本物?』
僕が尋ねると
『護身用なの。声が出ない私の為に両親が持たせてくれたのよ』
指をリズミカルに泳がせてそう答えると明るく微笑んだ。
その時、部屋の中からベルを鳴らす音が聞こえた。
美海は軽く微笑むと、僕の肩に手を掛けて立ち上がり
ベルの音の方へ呼ばれていった。
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