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里中はスタジオ前のロビーのソファに座り、番組プロデューサーである吉木を待っていた。大物司会者の見送りを終えた吉木はロビーへと戻ってきた。
吉木の隣には若手プロデューサーである八野の姿が見える。
「今日もありがとうございました」
吉木は里中よりも年齢的には後輩に当たる。よって、いつも丁寧なお辞儀を欠かさない。
「いえいえ、いつもお世話になっております」
里中は吉木以上に、頭を下げる。使われなくなってしまったら、困るのだ。
「今日は以前言っていた、若手を紹介させて頂きたくて」
吉木に紹介された八野は、里中に挨拶をした。
「今度、一本特番を作ることになりましたので、ぜひお願い致します」
里中は頭を下げつつ、「どのような特番なんですか?」と聞いた。
「お笑いのネタ番組です。お笑い世代交代というテーマでして、ベテランと若手のネタ見せ対決を……」
八野は一枚にまとまった企画書を里中に渡す。
「若手芸人も大勢出るとは珍しいですね」
「そうなんですよ。ただ若手はネタの質に若干不安がありまして」
八野は頭を掻く。
「そこで里中さんにお願いしようと……」
吉木は腕を組みながら、頷いた。
「ええ。ご協力させていただきます。ぜひとも、お願い致します」
里中がそう答えると、吉木は「良かったですよ」と顔を綻ばせ、続けてこう言った。
「息子さんも出るわけですし、じつは待っていた案件だったんじゃないですか?」
「はい?」
里中は吉木の言葉に目を丸くした。
「里中さんの息子さん、お笑い芸人ですよね?」
「いえ……」
里中にとっては寝耳に水だった。20歳になる息子は、建築現場の社員として勤務しているはずだった。
「ご存じないんですか?」
里中は微かに頷いた。
吉木は八野に資料を催促した。吉木は八野から一枚の紙を取ると、里中に手渡した。それは出演者のプロフォール資料だった。
タレント名『ブルートレイン』と書かれた紙には、確かに自分の息子と知らない男がツーショットで写っている。
「今、人気出てきてますよ。まだテレビはこれからですが」
里中のショックを受け、八野は気を遣うようにそう言った。
「そうですか……」
里中は大きくため息をついた。あまりの気の落ち込みように、吉木と八野は、顔を見合わせ、その場に立ちつくしてしまった。
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