〇2息子

1/2
2人が本棚に入れています
本棚に追加
/12ページ

〇2息子

 里中の怒りは相当なものだった。家に帰ると鬼の形相で、妻の良子をダイニングテーブルの椅子に座らせた。里中は向かいに座り、良子を問い詰めた。 「勇人が芸人だというのは本当なのかッ!?」  良子は何のことかと、シラを切った。しかし、里中は、吉木から手渡された出演者のプロフィール資料をテーブルに置き、良子を再び睨みつけると、ついに観念した。 「何で黙っていたんだ!」  里中はテーブルを叩き、凄んだ。 「私だって、言いたかったけど、あなたが反対するから……」 「反対するに決まってるだろうが!」 「だから息子も寄り付かなんじゃない」 「なんだと」 「あの子がどうしてもやりたいって」 「親なら止めるべきだ!」 「止められるわけないでしょ。止めてもやるに決まってるし」 「俺には社員だと嘘をついてたんだぞ」 「そうまでしても、やりたかったことなの」  里中は納得のいかない様子で、ため息をつき、椅子へ深く腰掛けた。 「あなたがそこまでして、芸人に反対する意味が分からない……」  良子は泣きそうな目で、里中を見つめた。  「反対するさ。なんの保証もなく、笑われるだけの商売なんか」 「あなたのやっている仕事だって、なんの保証もない商売でしょ!」  良子からすれば、里中のしている仕事もお笑い芸人と同じような仕事であった。何の保証もなく、笑われることはしないが、ただ笑っているだけの商売である。  そんな商売が一体いつまで成り立っていくというのか。結婚したのも良子にとってみたらギャンブルでしかなかった。 「あなたのあの子の商売の何が違うって言うの? あなたに私と勇人は文句も言わずついて行ったじゃない。どうしてあの子の時は、素直に応援してあげれないの?」 「応援できるはずないだろうが」 「どうして!?」
/12ページ

最初のコメントを投稿しよう!