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ますます腹が痛くなってきた。臭いガスが出て止まらない。
昨夜、餃子と塩にんにくラーメンを食べたため、自分で出したガスなのに自分の鼻が曲がりそうなほど臭い。
部屋を出てトイレを探してすぐに見つかるのか。途中で漏らしてしまったらどうしよう。それをSNSで拡散されたらどうしよう。我が子を抱いてみたいのに、一生結婚できなくなったらどうしよう。
不安が不安を呼び、もう耐えられなかった。コジローはトイレに駆け込み、下すだけ下して出すものを出した。その臭いのひどさと言ったらなかった。昨夜食べたにんにくが、腹の中でとんでもないものに変化していた。けれどもここで用を足さなければ、本当に恥ずかしい男に成り下がっていただろう。
コジローは何も盗まなかった。この部屋の主が被害を受けたとすれば、幾許かの上下水道代ぐらいだ。五円もかからぬその代金とペーパー使用料で約十円の損失は、いくら貧しい女であっても許してほしい。緊急事態だったのだ。人助けだと思ってくれたら御の字だ。
トイレを出て、すぐにリュックを背負い、コジローはそそくさと部屋を出た。
ふと、先ほど会った中年男を思い出した。何となく同業のようにも思えたが、深く考えるとまた腹が痛くなりそうだったのでやめた。
コジローが立ち去った女の部屋には、いつまでも異様な臭いが立ち込めていた──。
(了)
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