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すっかり寝てしまった亜衣。
亜衣の寝顔を確認し、苦しそうな顔はしていないので、ホッとした。
とりあえずこのまま少し寝かせておこう。
「幸せ、か」
グラスのウイスキーを口に含みつつ、亜衣の言葉を思い出す。
両親の離婚で母親と亜衣と離れ離れになり、すぐに若い女がやってきた。
父親の浮気相手だ。
馴れ馴れしくしてきたが、仲良くなんてしたいわけがない。何が『新しいお母さん』だ。
当然、陸と家族の溝は埋まらないまま、しばらくしたらまた父親が浮気をした。
父親はどうしようもなく、女にだらしなかった。
その後、何度浮気を繰り返したかわからない。
あんな男のどこがいいのか、陸にはさっぱりわからないが、父親には女性を惹きつけるものがあるらしい。
陸が父親の元に残されたのは長男だったからだが、父親とあまりに不仲で言う事もきかない上、後妻が産んだ義理の弟が大人しく物分かりがよかったので、陸はお役御免とばかりに解放されたのだ。
亜衣と母親の事は忘れた事がなかった。
いつか、とは思っていたが、会いに行く勇気が持てなかった。
まさかこんな形で再会する事になるとは……
「今日が幸せのはじまりかもな」
隣でだらしなく口を開いて寝ている亜衣を見て、陸はグラスを口に運んだ。
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