其の泥棒、形而下につき。

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泥棒 当て字。語源は諸説あるが「押し取り坊」が転訛したとする説、「取り奪う」が転じたとする説、また泥で顔を隠し、棒で武装していた事に由来する節などがある。 ……ふーん、じゃあ関係ないのか… 「………………………何だっけ?」  あれ、何だっけ?  俺、何かポイ事言ったよな?  カチカチと忙しなく『泥棒』についてのページを閲覧していく。あー何だ気になる。さっき俺は一体何て言ってたんだ?  泥棒。どろぼう。ドロボウ。ど、ろ、ぼう。何だっけ?何か娘が興味なさそうな何か、ゲロゲーロみたいな事言って、えっと…  そこまで考えてハッと我に返る。  危ない危ない、のんびりしてる場合じゃないのだ。履歴に……なんだったか。  何を検索するつもりだったのか思い出せず、うーうーなどと唸り気ばかり焦る。  ふと、パソコン画面の右下に目がいく。  時計!ウォッチッチ!そうそう妖怪だ!  思わず膝を叩いてしまう。そう、妖怪だ、妖怪の話をした。妖怪、何か妖怪の、妖怪か?何か全然しっくりこない。 …………どろ……たぼう?  ん?あれ?妖怪を調べるんだよな。泥田坊だっけ?泥棒の話だったか。泥田坊?田を返せ、的な?  まさかそんな馬鹿な。  違う、流石に俺でもそんなアホみたいな事言ってないはずだ。そもそも田んぼを盗むって意味が分からない。米だろ、盗むなら、田んぼじゃなく。デカいのか?超デカいのか?  首を捻りながらも一応『泥田坊』について検索する。 泥田坊 翁が田を遺して亡くなったが、その息子は放蕩している。すると夜な夜な田んぼに一つ目の化け物が出るようになり「田を返せー」と罵った。  うんやっぱり関係ない。というか泥田坊は奪われる側だろう、立場が逆だ。全然しっくりこない。じゃあ何だ?何の妖怪だった?というか妖怪だったか?違うんじゃないか?もっと気の利いた事を言ったんじゃないか?  何しろ思い出したい。忘れたままでは勘弁ならない。あの娘が褒めてくれたのだ。久しく見なかった、また暫く見ないであろう、あの柔らかい表情。  今日という日を、良いものとして終えたいのだ。 カチカチカチカチカチカチカチカチ…  その後も捜索を続け、2時間経ったところで、俺が盗まれたものはどうやら『時間』ではない事に気付く。  顛末についてはもう言いたくない。強化ガラスよりは砕け易い多くを俺は失い、結局メシも食ってない。
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