2.ちょっとした副業

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2.ちょっとした副業

 私は会社員として働く傍ら、平日の夜や休日を使ってちょっと変わった副業をしている。簡単に言えば結婚相談所や婚活サイトに登録している男と会う仕事。だが所謂〝サクラ〟ではない。カウンセリングと称して登録者と会い彼らの話を聞く仕事だ。相手の言うことを否定せずただひたすらその主張に相槌を打ち彼らの味方を演じる。そして褒めて褒めて褒めまくるのだ。相談所の人間に厳しいことを言われ自信をなくした人たちに自信を持ってもらう、いわば〝おだて屋〟とでも呼ぶべきこの仕事は聞き上手の私に向いているようで評判も上々だ。女性の登録者には男性のおだて屋がつくらしい。結婚相談所に勤める友人の紹介で始めたこの仕事。報酬は微々たるものだが相手の男がどんどん変わっていく様を見るのはなかなかに面白い。褒められまくって勘違いし、ダメな方に向かってしまう男もいるがそれは私の知ったことではない。相談所の人間にこっぴどく怒られ現実を知ることになるのだろう。だがおだてられて自信をつけ、見違えるほど生き生きとする人もいる。理沙の彼がそうだった。第一印象は〝空気みたいな男〟。見た目はまぁ普通なのだが自分に自信がなさすぎるせいか存在感が全くない。「いや、僕なんて」が口癖だった。そんな彼を私が変えた。カウンセリング初日「会社に気になる女性がいるんです」と言って彼がぽつりと漏らした名前。私はそれを聞いた瞬間目を丸くした。ちょっと変わった苗字なのと彼が社名まで出したのもあってあの理沙だとすぐにわかったからだ。
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