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1.幼馴染の結婚
来月に結婚式を控えた幼馴染の理沙は満面の笑みでグラスを掲げる。
「独身生活もあと少しかぁ。今日はとことん付き合ってよ、加奈」
「うん、もちろん。理沙、結婚おめでとう」
私と理沙は乾杯し一気にビールを飲み干した。
「わぁ、久々に飲むとビールもおいしいね。彼、ワイン通だから最近ワインばっかりなんだ」
「そうなんだ。この前写真見せてもらったけど、理沙の彼ってお洒落な感じの人だもんね」
そうかなぁ、と言いつつ理沙は喜々として彼氏自慢を始める。
「最初は冴えない男だと思ってたのにどんどんイケメンになってったのよねぇ。まさか社内でこんないい出会いがあると思わなかったわよ。向こうは私のこと前から知ってたらしいんだけど」
「理沙は美人だから目立つんだよきっと」
そんなことないよと言いつつ彼からどんなアプローチを受けたのかを語り出す理沙。私はただひたすら聞き役に徹する。
(これはまだまだ続きそうだな)
笑顔で相槌を打ちつつも内心うんざりしていた。理沙はいつも自慢したいことがある時だけ私を呼び出す。
「ねぇ加奈、私たちももう二十八歳。もたもたしてるとすぐに三十路よぉ。花嫁衣裳は二十代で着たいじゃん。まぁだ彼氏いないの?」
たまに話題を振ってくると思えばこの言い草。思わずため息をつきそうになるのをぐっと堪え曖昧に頷いた。
「あ、そうだ。今度うちの彼氏に誰か紹介してもらおうか?」
どうせそのうちこんなことを言い出すんじゃないかと思っていた。彼の前で友達思いの優しい女を演じたいのだろう。私は首を横に振る。
「いいよ、そんなの。それよりさ、ドレスの試着したんでしょ? 写真見せてよ」
強引に話題を変えると理沙は少し不満そうだったがすぐに気を取り直した様子でスマホを取り出す。
「ほら見てよ、このドレスよくない?」
「うん、よく似合ってる。綺麗だなぁ」
理沙は私の言葉に気をよくしたのか次々に写真を見せてくる。私は欠伸をかみ殺しながらぼうっと写真を眺めていた。
(理沙の彼に誰か紹介してもらうですって? 冗談じゃない)
私は幸せそのものの彼女を見て心の中で呟く。理沙、あんたの彼は……私の客よ。
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