もう一度会えたなら

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 ──どうしても会いたい人がいる。  高校一年の夏、好きなアーティストのライブに行く為、初めてバイトをすることに決めた。 「今日から入りました、葉月冬音(はづきとうね)です。よろしくお願いします」 「──よろしく」      初めてのバイト先に選んだのは、出前専門の寿司屋。従業員は全部で三名。和多田店長、私の五つ上の女性、柿崎絵里と、五十八歳のおばちゃん。  おばちゃんは週三回ほど洗い物要員として勤務。若い女性はフルパートで、主に店長の補佐。忙しくなると巻き寿司も作るベテランだ。  その女性ははじめ、不愛想で見た目も派手なことも手伝って、少し高圧的な印象だった。しかし、いつの頃からか私を可愛がってくれるようになり、今までが嘘のようにバイトは楽しくなり、仕事もどんどん覚えていった。  次第に、プライベートでも遊ぶようになり、親密さは増していった。私は絵里さんを本当の姉のように慕い、実際『お姉さん』と呼ぶようになっていた。それに応えるようにお姉さんはますます可愛がってくれ、家に泊めてくれるようになり、服を譲ってくれたり、手料理を振る舞ってくれたりと、本当の姉妹のようだった。  そんなある日、薄々気づいてはいたものの、ある告白をされる。 「私、店長と付き合ってるの」  驚きは少なかったが、不倫だと知ったときは衝撃だった。若く、未熟だった私は、悪いこととわかってはいたものの、少し、二人の関係に『大人』を感じ、ドキドキしたことを覚えている。  それから、一年程経った頃だった。いつものようにバイト先に行くと、いつもの雰囲気とは違い、重い空気が部屋中漂っていた。 「──おはようございます」 「冬音おはよう。ちょっといいか?」  店長に呼ばれ休憩室に行く。すると、お姉さんが先に座っていて、うつ向いている。 「突然だが、来月いっぱいでこの店が無くなることになった」 「え……そんな。どうしてなんですか……」  あまりにも一方的な話に、狼狽える。 「簡単に説明すると、──俺が悪いんだ。すまない」 「それじゃ、冬音がわかりませんよ……」  お姉さんはうつむいたまま呟いた。 「そうだな。──最近、パートのおばちゃん来てなかっただろう? そのおばちゃんな、実は辞めてたんだ。そしてそのおばちゃん、以前から職安に勤務体制のこと、給料のことなどを相談していたみたいでな。俺は、店の経営が厳しい事を理由に、サービス残業をさせたり、休憩を短くしていたんだ。笑顔でやっていてくれていたから俺はそれに甘えていたんだな……それで半年前に労働基準監督署から注意を受けていたのに、俺はその注意を無視し、改善をしなかった。それでこういう事態になってしまった……二人には本当に悪いと思っている」  幼く無知な私は、そのおばちゃんを恨んだ。大切な場所を壊されたと思ったのだ。本当ならそのおばちゃんに落ち度などなかったはずなのに……。  それから一か月後店は閉店となり、私たちはバラバラになった。と言っても、連絡先は知っていたので、以前ほどではないが定期的にお姉さんとは会い、近況報告などしていた。  しかし、お互い生活が変わり、だんだんと疎遠になっていき、会う機会が減っていった。  そして……私にとって人生を大きく左右する出来事が起こる。  高校三年の夏休み明け、突然のいじめが始まったのだ。  あまりの突然の出来事に理解が追い付かず、現実を受け入れるまでには数日を要した。だが、思い当たるふしはあった……  当時、いじめられていた女子と夏休み中に仲良くなり、遊んでいた。しかし、それが罠だった。その女子は簡単に寝返り、あることないこと言いふらしていたのだ。  結局私は呼び出され、どうしてこうなったのかを十人程の女子から、二時間ほど罵詈雑言を浴びせられた。「あんたが私たちの悪口を言いふらしてる。いじめられてるのはあんたじゃない!私たちだから!」「今すぐ死んでほしい」など理解しがたいものがほとんどだった。その日を境に本格的にいじめがスタートし、いじめ方は多岐にわたった。それは二十年以上経った今でも忘れることはできない……  ひとりぼっちになり、幾度となく死んでしまいたいと、手首に剃刀をあてたり、高い所に立ってみたりしたものの、結局何も出来なった。  そんな地獄の方がましだと思えるような日々の中でふと、お姉さんの事が頭に浮かんだ。しかし、連絡を取ろうにも連絡先がわからない。携帯電話を壊されていた私は、連絡先が全くわからなくなっていたのだ。でも、年末ということもあり、年賀状を書いてみることに。幸い、住所はわかっていた。新年早々悪いとは思いながらも、今の状況を書き連ねた。そして、最後に自分の電話番号も。  すると、元旦早々すぐに連絡があった。 「冬音! 何があったの? 大丈夫? 今すぐおいで!」  何も変わらない、優しく懐かしいその声に、私はたまらずその場で泣き崩れた。    インターフォンを押すとすぐにお姉さんが出てきた。そして私を抱きしめた。 「どうして早く連絡してこなかったの!」  お姉さんも泣いていた。数か月のいじめで、すっかり闇に覆われ、光など差し込む隙間さえなかった心が、温かい光に包まれた。  少し落ち着いたあと、一通りの経緯を説明した。お姉さんは私の手首の傷を見て涙を零し、そっと手で覆った。 「もう、こんなことしないでね。私がついているから」  その言葉がどんなに心強かっただろう……  そして、お姉さんの隣にいる男性を紹介してくれた。  その男性も、私の話を聞いている間、幾度も涙を拭っていた。優しい男性と巡り会えたのだと嬉しくなったのを覚えている。  こうしてまた、私たちは連絡を取り合ようになり、私が寂しくならないよう家にも招いてくれ、引きこもらないよう、外へも連れ出してくれた。その間、いじめの話には一切触れず、楽しい時間だけを過ごさせてくれた。  そして、無事に卒業を迎え、長く厳しい冬は終わった。  私が就職してからもお姉さんとの関係は変わることはなかった。そんなある日、お姉さんから結婚報告を受け、自分のことのように喜び、幸せな気持ちになった。  いつまでもこの幸せが続いてほしいと願った……  お姉さんは結婚をし、私自身も仕事が忙しくなり、以前より連絡を取らなくなっていた頃、久しぶりに、お姉さんからの着信が入った。 「離婚することになったの……」  予想外の言葉に吃驚し、すぐに話を聞きに行くと、既に旦那さんは出ていき別居状態だった。  何度理由を聞いても「私が悪いの」としか言わず、最後まで話すことはなかった。しかし、どうしても納得がいかなかった私は、直接旦那さんに話を聞くことに。本人には絶対に言わないことを約束に、話してくれた。  ──お姉さんは、多額の借金をしていたのだ。それは結婚する前からで、かなりの額だったようだ。話し合いの結果、離婚となったらしい。そして、借金の原因は買い物依存症。今思えば、ブランド品を多く愛用しており、いい暮らしぶりだった。実家がお金持ちのようだったので、お金には困らないのものかと思っていたのだが……  人知れず依存症と闘っていたのかもしれないと、胸が締め付けられる思いだった。  そして、それっきり連絡は途絶え、離婚と同時にこの町から姿を消した。      お姉さんがいなくなってから三年が経ったある日、突然知らない番号からの着信が鳴った。いつもなら気にも留めないのだが、その日はなぜか気になり、恐る恐る電話に出た。 「久しぶりだね、冬音」  聞こえきたのは、生気が感じられない声。  しばらく話したあと「お金を貸してほしい」と告げられた。  正直、途中からわかっていた。  会話は嘘で固められているのは気づいていたし、未だ言うのを躊躇っているのもわかった。 「今、付き合っている人の会社が倒産しそうなの。三十万円貸してほしい……」  悲しかった。久しぶりの電話がお金の無心だなんて……  結局私は断り、二人の会話は終了した。  それから年月が経ち、私は今年、結婚することになった。  晩婚で、子どもは諦め、二人で好きなこをとして暮らして行こうと話し合い、籍を入れた。それでも十分幸せだ。  しかし心残りがある。この結婚をお姉さんに報告したい。きっと喜んでくれるのはずなのに……  年月が経っても忘れたことなどない。思い出しては悲しくなり、暗く影を落とす。どんな気持ちで町を出たのか。親族にも見放され、ひとりぼっちで知らない町でどんな思いで暮らしているのだろうか……  最後に話した時、本当にあれで正しかったのだろうか。あんなに恩があるのに……。どうして感謝の気持ちを伝えなかったのだろう。きっと妹のように思っていた私に、お金の無心をするなんて、余程の事だったはず。それを私は、突き放したのだ……  どうしても感謝を、そして私は幸せになれたのだと伝えたい。  しかし、どう探せばいいのか……そのことだけが頭を支配していた。    春の気候に、高く聳え立っていた雪の塔が崩れ始め、茶色く枯れていた木々に新芽が芽吹きだした頃、アパートの郵便受けに見慣れないチラシが入れられていた。隣を見てもそれらしいものは見当たらず、ここだけに入っていたようだ。  とりあえず、チラシを手に取り部屋に入る。  テーブルに一度は置いたものの、どうにも気になり、目を通すことに。 『会いたい人はいませんか?』 『思いを伝えたい人はいませんか?』 『再会のレストラン』  そして、三日後の午後一時。池田薬局前のバス停。  レストラン行専用のバスが迎えにくるらしい……  会いたい人……これは単なる偶然なのか、それとも……  私の心の中を覗かれているようで不気味さも感じたが、これで会えるなら……これが最後のチャンスになるのかもしれない。注意深い普段の私なら、こんなチラシなど見ることもない。  しかし、何かが引っ掛かる。  結局、当日まで決めかねていた私は、バス停まで様子を見に行った。  すると、すでに丸みを帯びた緑色のバスが止まっていたのだ。遠巻きから見ていたが、意を決しバスに近づく。  そして、ふくよかで愛想のいい中年男性の運転手に名前を告げ、乗り込む。           どうやら乗客は、私一人のようだ。      乗ってから二時間ほど経っただろうか。依然、バスは森の中を突き進んでいる。少しづつ不安が、心の中で増幅し始めた時だった。木々の間から、三角屋根の建物が姿を現した。そして、その建物の前で静かに停車する。  バスを降りると、一人の黒服の男性が立っていた。 「いらっしゃいませ。葉月様ですね。遠い所までようこそお越しくださいました」  紳士的なこの男性は、背が高く細身。透き通るほどの白い肌。 「どうぞこちらへ」  中に入ると、真ん中にひとつだけある丸いテーブルに案内された。どうやら、完全予約制らしい。  「本日はお越しくださいましてありがとうございます。当店のチラシをご覧いただいたんですね」  ウエイターはこちらを見て、にこっと笑った。 「あのう……こちらは、どういったお店なんですか?」 「はい。ここは会いたい人とお客様をつなぐお店でございます」 「じゃ、会いたい人を伝えたら探してくれるということですか?」 「左様でございます」  すると、ウエイターは後ろの部屋を見た。 「早速でございますが、お連れ致します」 「えっ? 今……ですか?」 「はい。もうこちらにいらっしゃいます」 「え……だって、私まだ……」 「大丈夫です。チラシが入っていた時点で、もう見つかっております」  入っていた時点で? 誰にも話していないことなのに、どうやって調べようがあるんだ……この人いったい…… 「お客様が混乱するのは当然でございます。でも、一度私たちを信じていただけませんか? 一度だけで結構です。必ずお客様の願いを叶えてさしあげます」  私を見るまっすぐなその目は、とても騙しているとは思えなかった。賭けてみてもいいかもしれない… 「──お願いします」 「ありがとうございます! それでは、お連れする前に一つだけご説明させていただきます。このレストランは、霊界とお客様を繋ぐ役割を担っております。こちらで精査し──そして、今回葉月様が選ばれたのです」 「ちょっと待ってください! 霊界って……」 「はい、ここは亡くなられた方とお繋ぎするお店でございます」  ──亡くなった人。ということは、お姉さんはもう……  押し黙る私を見て、心配そうな顔でこちらを見る。  いや、もしかしたらと、以前から考えてはいたのだ。どんな形でもいい。会えるチャンスはもう来ないかもしれない。 「──はい。よろしくお願いします!」  すると、ウエイターは奥の部屋へ入っていった。そして…… 「冬音!」 「お姉さん!」  お互い駆け寄り、私は思いきりお姉さんに抱きついた。 「お姉さん……お姉さん。会いたかった……」 「また会えるなんて。やっとやっと……もう会えないかと思ってた。──ありがとう、覚えてくれていて」 「忘れるわけないよ……」  今までの思いが、涙となって溢れ出てくる。 「冬音、大丈夫? あんまり、時間ないから座って話そ」  二人席に着くと、ウエイターが様子を見に来た。 「これからお料理をお持ちいたしますので、もう少々おまちくださいませ」  一礼すると、キッチンに戻っていった。  そういえば、ここはどんな料理が出るレストランなのだろう。メニューは見当たらなかったし、聞かれもしなかった…… 「冬音、本当に久しぶりだね」  目を赤くしたお姉さんが手を伸ばし、私の手を優しく握った。 「はい。もう会えないかと思っていました」 「元気にしてたの?」 「うん」  久しぶりすぎる再会と、この不思議な状況に少し戸惑っている私がいた。 「冬音、何歳になったの?」 「三十九歳……」 「えー! そんなに大きくなったの? じゃ、私より年上になったのね……」  その時、お姉さんの時間は止まっているのだと改めて実感し、急に胸が締め付けられた。 「お姉さん、どうして亡くなってしまったんですか? 私さっきまで知らなくて……」 「もう、そんな悲しい顔しないの。死んでいても会えたんだから」  お姉さんを見ると、離れてからそんなに歳を重ねているようには見えない…… 「そうね、理由か……気づき、かしらね」 「気づき?」 「うん。私、あれからもう一度結婚したの。でもすぐに、旦那が多額の借金を抱えていることがわかって……しかも、その後すぐ他に女がいることも判明したの。旦那が借りていた所が悪くてね。違法まがいのことをしている金融会社で、返せず女と逃げ出した旦那の代わりに私が払うことになってしまったの。とても払える金額ではなかったわ。今更だけど、それで気づいたのよ。私も同じことをしたんだわって。聞いていると思うけど、最初の結婚の時、あの人に借金の事は告げなかったから。彼は騙されたと、裏切られたと思ったでしょうね。それに若い頃、不倫もしていて奥さんを悲しませていたから。全て自分に返ってきたのよ。全ては自分が招いたことだって気づいて……その時、私は生きている価値のない人間なんだと思ったの」 「そんなことない! お姉さんには生きていてほしかった……私、お姉さんがいてくれたから、あの壮絶ないじめを乗り越えられたのよ! そして、あんな経験をしたのにも関わらず、人を嫌いにならなかった……それはお姉さんのような人がこの世の中にはいると分かっていたから。親友だってできたし、職場でもうまくいってる……だから、だから……ずっと感謝を伝えたかった。もっと早く……に」  涙は枯れることなく、とめどなく溢れてくる。会えたことの喜び、もう生きてはいないという悲しみ。助けることができなかったという、悔しさ…… 「ありがとう、冬音。あんたは昔から優しくて人の気持ちがわかる子だった。人の気持ちがわかりすぎる分、傷つくことも多かったと思う。でもそれを恐れずに進んできたから今の幸せがあるのよ。それは冬音、あなたの努力よ。素敵な大人になってくれてありがとう……」  小さくうなずくと、お姉さんは優しく微笑んだ。  すると、ウエイターが料理を運んできた。 「お待たせいたしました。カレーパスタと思い出の千切りキャベツでございます」  目を疑った。なぜ、この料理なのかわからなかった。しかしすぐに温かい気持ちに包まれた。 「これ! 私が大好きなカレーパスタ!」 「すごい! 冬音、これ好きだったよね。余ったカレーを冷凍しておいて、お昼によく作っていたけど、うちに来る度に食べたいって」 「お姉さんの作るカレー自体美味しいから、それをパスタに絡めたら最高においしんだよ」 「──ありがとう。よく一緒に食べたよね……でも、千切りキャベツって何かしら?」 「──あっ!」   二人同時に思い出し、笑いだしてしまった。 「これすごい! ちゃんと再現されてる! 私が冬音にキャベツの千切り頼んだら、ざく切りみたいになってて……」  お姉さんは、途中から笑いすぎて話せなくなってしまった。 「ちょっと! なんでこんな恥ずかしいものが出てくるのよー! もう!」  すっかり忘れていたが、この当時も何も手がつかないほど大笑いしたことを鮮明に思い出した。  どれも、楽しく懐かしい思い出。何年経っても色褪せることはない。 「さっき冬音は、私がいてくれてよかったって言ってくれたけど、私だって同じなのよ。私、姉が二人いるけど、私だけお父さんの連れ子で、母と姉とはあまり馴染めなかったの、最後までね。関西からこっちに引っ越してきてもあまり友達は出来なかったし、見てもわかるように派手だったから、小さい町では浮いていたのよ。だから孤独を募らせていったの。でも、冬音がこんな私に、少しづつ懐いてくれていたのが嬉しくて、次第に本当の妹のように接するようになったの。暗い日々に、光を照らしてくれたの冬音なのよ。出会えてよかったのは私の方。──本当にありがとう」  お姉さん……離れたくないよ…… 「柿崎様、そろそろ……」 「え……」 「はい、わかりました……」 「お姉さん! 行かないで……ずっとそばにいてよ! 私結婚するの! 彼に会ってよ!」 「おめでとう。ちゃんと見てるから大丈夫。素敵な彼よね。あの人なら冬音を任せても大丈夫」 「──ずっと、そばに……いてくれたの?」 「もちろんよ。だからもう泣かないで、お願い。最後に笑った可愛い顔を見せて」  止まることのない涙で、お姉さんの顔が見えない。 「私、幸せになるから……もう、心配させないから」  お姉さんは私の前に立ち、その冷たい手で両頬を包んだ。 「辛くなったら、誰でもいいから頼るのよ。一人で抱えちゃだめ。私を頼ってくれたように、誰かに助けを求めるの。そして、私がいつもそばにいることを忘れないで。いつまでも幸せを願ってる。本当にありがとう」  お姉さんが少しずつ、消えていく……  最後は笑顔で…… 「ありがとう、ありがとう」  夢のような時間はあっという間に過ぎ、テーブルには二人分のお皿が残されていた。 「本当に会えたんだ……ここにいたんだ……」 「葉月様、バスが用意できております」 「──わかりました」    入口の前で、静かになった店内を見渡す。 「もう大丈夫だから、ちゃんと幸せになるから……」    バスに乗り込む時、ウエイターが声を掛けてきた 「葉月様、とてもいいお姉さまをお持ちですね」 「──はい! 自慢の姉です!」 「──お気をつけて。ご来店ありがとうございました」 「店員さん、ありがとうございました。どうかお体に気を付けて」 「もったいないお言葉、感謝いたします」  席に着き、もう一度一礼し、手を振った。    バスは、静かに発車した。森の中をゆっくりと進む……  ふと振り返ると、そこにはもう、レストランはなかった。そして、その場所には、月明りに照らされた、色鮮やかなスイートピーが咲いていた……    きっと、どこかでまた、誰かが幸せな再会を……  
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