SHOW TIME 4

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SHOW TIME 4

 ベッドサイドの目ざまし時計を見ると、時間は午前4時だ。  寝たりない反面、神経が逆立っている。今から眠ろうとした所で今度は寝過ごし、明日の講義に遅刻するかも知れない。  真面目にやんなきゃ。  マグレでやっとこさ、潜り込んだ国立だもんな。    守人はぼやき、冷や汗をかいた分、ひどく喉が渇いているのに気付いた。  ベッドから立ち上がると、腰や肩の筋肉に強張る痛みを感じる。夢ん中だけじゃ無く、本当に山歩きでもしたような感覚が体の彼方此方にある。    そういや昨日の午後、何したっけ?  講義もバイトも無い日だから暇してたのは確かだけど……時々ぼ~っとして、何してたか判んなくなるんだよな。    小首を傾げてみるものの、この奇妙な忘却癖に対して拘らず、違和感を引きずらないのが守人のいつものパターンだ。  廊下へ出、階段を下りる。静まり返った一戸建ての家の中には他に誰もいない。  守人が東京で暮らしていた11才の時、「ある事件」がきっかけで両親は離婚。母は親権を放棄し、やむを得ず一人息子を引き取って二人暮らしを始めた父親も彼が15才になった春、事故死してしまっている。  天涯孤独の身の上になった守人が、その後、諦めかけた高校進学を果たし、卒業にこぎつけたのは東北で不動産業を営むと言う資産家の叔父のお陰だ。  それまで碌に会った事も無い叔父から急に手紙が届き、文字通り足長おじさんの役を引き受けてくれた事に当初当惑はあったが、今は感謝しかない。  今年の春、宮城県仙台市にある国立陸奥大学・文学部の入試に受かったのを機に、その叔父が所有する青葉区の古い一軒家へ守人は引っ越してきた。  叔父自身は現在、仕事の関係で中国に住んでおり、半ばハウスキーパーの役割だ。  本当はワンルームマンションで十分なのだが、月々の家賃を払わずに済むのは魅力的だった。ただっ広い家の住みづらさは有るものの、孤独には慣れている。  暗い台所へ入った守人は、古い冷蔵庫を開け、コーラのペットボトルを取り上げた。  扉を閉めた時、冷蔵庫の上へ飾ったアイテムの内、15センチ程の「エイリアン」フィギュアが目に入る。  第一作に出たモンスターの最終形態を再現したもので、独特の長い頭部を覆うフードが透け、中の髑髏そっくりな構造が見えた。  劇中フードは黒光りしており、透明に見えなかったから発売された当時はオリジナルに似ていないと酷評され、マニアにそっぽを向かれた代物だ。  その不評ぶりが却って守人の興味を引き、ネットで投げ売りされているのを買ってみた。確かに映画のイメージとは違うようだ。でも映画の設定にはこの方がむしろ忠実らしい。  なら、仕方ないよな。所詮、コピーがオリジナルに背ける訳、無いんだから。  そう思った瞬間、フィギュアのフードの奥、髑髏のぽっかり開いた目が、先程の悪夢の中で断末魔に痙攣する女の、大きく見開いた瞳と重なる。  動揺した守人は頭を振り、イメージを意識の外へ追い出した。その代りエイリアンの頭をつつき、シニカルに囁く。 「宇宙では、あなたの悲鳴は誰にも聞こえない」  映画公開当時、テレビコマーシャルで良く流れたコピーである。同じ世代の大学生に言っても目を白黒されるばかりだが、彼は気に入っている。  ま、いっか。朝まで何か、見ようかな?  そうそう、ポテチも持ってかないと。  気分を切り替えて廊下へ戻り、コーラとつまみ片手に階段を駆け上がる頃には、守人は先程の悪夢などすっかり忘れていた。  あまりに唐突な忘却。  勿論、これも彼にとって、いつもの繰り返されたパターンに過ぎないのだが……
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