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大学時代からの付き合いで、昔から俺はサヤカと涼介と仲がいい。
仕事でバラバラになった今でもずっと三人のグループチャットでやり取りし、カラオケや居酒屋に行ったり、家飲みして愚痴を言い合ったりゲームをしたり。
だから今回、俺の住むマンションに週末集まる計画も不思議がらずに、すぐ応じてくれたのだった。
「よぉ拓也、元気か?」
先に来たのは涼介だった。
切れ長の目に整った顔立ちでスラリと背が高い。
ずんぐりむっくりの俺とは正反対。
なのに、妙に気が合うのだから不思議だ。
涼介はドアを開けるや否や俺を見て、驚いた顔をした。
「どうしたんだ、その恰好。結婚式の二次会でもあんのか?」
「いや…まぁ…」
突っ込まれるのも当たり前だ。
休みの日はTシャツ・短パンの俺が、髪をきっちりツーブロックに分け、黒いシャツにスラックスというスタイルだったから。
ただ、質問した割に興味はない様子でまっすぐリビングに入ってドカッとソファに腰を下ろしたのだった。
そこへちょうどピンポーンとドアホンが鳴る。
サヤカだ。
会うたびに思うが、アイドルみたいにかわいい。
俺の服に気づき、「なに、そのカッコ。ステキ~」と笑いながら、涼介の隣に座る。
三人揃ったところで、俺は切り出した。
「サヤカ、話がある」
シンクに用意していた真っ赤なバラの花束を持って、サヤカの前にひざまずく。
「俺と結婚してくれ!」
「へ? ちょっ…拓也?」
サヤカは驚いて、涼介と顔を見合わせた。
当然だ。
付き合っているのはサヤカと涼介。
しかも、もう七年にもなる程長い。
「実は前から好きだった。二人が付き合うずっと前から。涼介が先に告ったから我慢してたんだ。そのうち別れると思って」
「…おまえ、そんなこと今まで一度も。え? だからおまえずっとカノジョいなかったの?」
「ん…まぁな…」と、咳払いをひとつしてから話を続ける。
「最近思ったんだ。俺にもチャンスあるかもって。だって、まだ結婚したわけじゃないし」
「今日はなんで俺呼ばれたの…?」
「そりゃあフェアにいきたいからさ。涼介がいないところで言うのも悪いし」
「そういうことは事前に言ってくれよ」
その言葉は無視することにしてサヤカに向き直る。
「どう?…考えてみてくれない?」
真剣なまなざしに曇った表情を見せた。
「今まで拓也のこと友達だと思ってたから…」
「…だよね…わかってる」
「でも、真面目に言ってくれてるなら考えてみようかな」
「なんだって?」
涼介は立ち上がって叫んだ。
「俺とずっと付き合ってて、拓也を選ぶとかありえないだろ?! おまえ、拓也は恋愛対象になんか考えられないって前に言ってたよな」
「…そ、そうだっけ? でも…最近涼介の気持ちわかんないし…」
「ダメだ! あんなろくでもないやつ!」
「…涼介?」
「本当はもっと金を貯めてからって思ってたけど…サヤカ、決めた。結婚しよう!」
サヤカは一瞬ポカンとしていたが、徐々に目に涙を浮かべると、最後には涼介の胸に飛び込んだ。
どうやら入り込む隙はないようだ。
俺は花束をゴミ箱に放り投げた。
その日、サヤカから電話があった。
「拓也、ありがとね。うまくいったわ」
「どういたしまして。あれでよかった?」
「うん、上出来、上出来。服装も言った通りにしてくれたし」
「俺はTシャツ短パンでいいと思ったけどね…サヤカって策士だよな」
「ひど~い、未来の脚本家って言ってよぉ。拓也ってば、セリフが棒読みで冷や冷やしたんだから。涼介が鈍感だからバレなかったんだよ~」
「おまえらが俺のこと陰でディスってたのがよくわかったよ」
「やだ~、拗ねないで~。結婚式にかわいい友達いっぱい呼んであげるから」
「いらん、遠慮しとく」
「えぇ?! なんで」
「サヤカみたいな怖い女の友達なんてゴメンだよ」
俺は精一杯強がった。
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