25人が本棚に入れています
本棚に追加
/28ページ
「では、俺はこっちなので気をつけて帰ってくださいね」
折りたたみ傘を差した男性はそう言って駅の方に歩き出そうとした。
「あ、この傘いつお返ししたらいいですか?」
「傘はあげますよ」
「でもそんなわけにはいかないので……」
わたしはちょっと困りながら言った。
「安物の傘なので気にしないでくださいね。では」
そう言ったその声は柔らかくて優しい声だった。そして、男性は今度こそ歩き出してしまった。
わたしは歩き去る男性のシルエットをぼんやりと眺めた。その後ろ姿とひまわりの黄色が雨の降り注ぐ世界の中でキラキラと輝いて見えた。
雨が降らなければ出会うこともなかった。そんなことを考えながらわたしは雨の中咲き誇るひまわりを眺め続けた。
また、会えるといいな。コンタクトレンズを落としていなかったら顔をちゃんと見ることができたのに……。
なぜだか声とシルエットしか分からない君にまた会いたいなと思った。
最初のコメントを投稿しよう!