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一.
とある、朝。
遠くから、ゴミ収集車の鳴らすかすれて歪んだオルゴール音が耳に届く。
エレベーターも無い、六階建ての古びた市営マンション前の広場では、ほうきで地面をはく規則的な音が響いていた。
と、外の道路から、何かを引きずるような、ずる、ずる、というような音がさらに重なって近付き、ほうきを操る小柄な老人は背後に気配を感じて振り返った。
「あぁ、進藤さん、おはようございます」
手を止め笑顔で挨拶を送る老人だったが、進藤と呼ばれた男は、
「ぁあ……ぅん……」
ぼさぼさの頭を軽く下げ、着古して色あせた紺のジャージに、底も剥がれかけた便所サンダルをずる、ずる、とひきずりながら、薄暗いマンションの入口へと去って行った。
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