19人が本棚に入れています
本棚に追加
いつだったか、祖母に言われたことを思い出す。「最近は再婚相手から虐待を受ける子供もいるから」と言っていた。その手の話はいつもニュースの中で聞く。
でも、結花がそうじゃないか、と周りの人から思われるくらい、実はもっとありうることなんだろうか。綺麗で、お金に不自由していなくて強いと思っていた真衣でさえあんなに苦しい想いをしていた。
急に、「自分は恵まれている」と感じた。安心できる家があって、楽しいばかりじゃないけれど友達だっている。彼氏もいる。
見下した分、何かそういう子たちに、できることがないか、それで罪が償えないか。いや、こんな気持ちで何かしてあげようなんて、そういう子たちに失礼なんじゃないか。でも、何もしないより、思惑はどうあれ動いてあげた方がいいんじゃないか。
――落ち着け私、急いで進路を決めようとして、都合のいいように道筋を立てようとしてない?
ただ目の前のものに飛びつこうとしてない?
あれこれ考えて下を向いているうちに、二人分のサラダとスープが運ばれてきた。
ああそうだランチだった、と思い出す。
「結花、あんたはあんたなんだから。光がいようが成績がどうだろうが、やりたいことやっていいし、やりたくないことはやらなければいいのよ」
「お母さんはいつも自信があっていいなぁ」
つい、こぼしてしまう。こんなに言い切るような自信のあるものを結花は持っていない。すぐに流されるし影響を受ける。
「お父さんが死んだ時からね」
「え?」
「お父さんが死んでから、もちろん悲しかったけど、本当に人間っていつ死ぬかわからないなって思ったのよ。皆悔いのないように生きなさいって言葉では言うけどね、実際やろうとしたら、もう日々の選択一つ一つを自分に真剣に聞くから大変。ただ、自分で選んだら自分で責任とれるからね。私が自信を持っているように見えるなら、その結果なんでしょうね」
晴香は結花をまっすぐ見つめる。結花は目まいのような感覚に襲われた。急に母が知らない人のように見えたのだ。家族ではない、ただ40年以上生きてきた一人の人間に。
父のこともそんな風に考えたことがなかった。結花にとって父はずっと父だった。母が感じたように、父にも一人の人間としての人生があった。
「でも、全く自分の立場を考えないわけにはいかないでしょ? 受験もお金がかかるし……」
具体的にいくらか知らないけど、入学金だって学費だってかかるだろう。
母は「あんたのためならどうにかするから」と間髪入れずに言い切った。
「ただ、勉強しろってうるさく言いたくはないけど、成績が上がれば選択肢は増えるからね。自分で道を狭めたくないなら努力しなさい」
「はぁい」
母はスープが冷めるから、とそれだけ先に食べ始めた。俊樹はまだ戻らない。
思い切って聞いてみることにした。
「お母さんは、周りとの壁って感じたことある?」
最初のコメントを投稿しよう!