三人目

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 結花はカルボナーラ、母は明太子パスタ、俊樹は和風きのこしょうゆ味。  メインのパスタを一口分ずつシェアしてから、一息つく。カルボナーラはベーコンが肉厚で、こしょうがきいていておいしい。明太子パスタは辛いし、和風きのこしょうゆはあっさりして、だしの味がきいている。  味の感想を言いながら食べる時間は不思議な感覚がした。今日は光がいなくて、お子様用の椅子もスプーンもフォークも準備しなくていい。騒いでしまって、周りに申し訳なさそうな顔をしなくてもいい。両親をひとり占めしている。  嬉しいような、でもやっぱり寂しいような。  こんな感覚も、家を出ることになったらきっと感じることはないのだと、結花は思う。  皿を下げてもらったタイミングで、向かいに座った両親が、そろって神妙な顔をしているのに気付いた。この光景は見覚えがある。にわかにドキドキしてくる。  これは、これはまさか。 「結花に相談があります」  口火を切ったのはまたしても母親だった。中学生のあの日を思い出す。デジャヴ、というやつだ。2人家族が4人家族になると告げられたあの日。何もかも準備が決まっていて、振り回されるようになったあの日。また唐突な疎外感。  晴香が再び口を開くまでの数秒、結花は頭をフル回転させた。一方的に知らされるのが少ししゃくだった。四者面談の時だってこんなに頭は使わなかったのに。   そして。 「もしかして、二人目?」と言った結花の声と、 「光のことで」と言い出した晴香の声が重なった。  瞬間、晴香の目が見開いた。すぐに怒りの色に染まる。 「ばかっ!」と張りのある大きな声で、結花は𠮟りつけられた。  シーンとする店内。落ち着いたBGMが急に場違いになる。 「すみません」と俊樹が周りのお客さんにぺこぺこと謝っている。  結花はなぜ怒鳴られたのか意味がわからなかった。 「何言ってんの、あんたが一人目、光は二人目、もし下にできたとしても三人目でしょう!」   さすがにさっきよりは音量を落として、しかし母はまだ怒っている。とりあえず「ごめんなさい」と周囲に聞こえるように謝ると、周りの客の注意がそれていくのがわかった。徐々に店内は騒がしさを取り戻していく。 「もう二度と今みたいなこと言わないで。私の一人目の子供はあんただからね!」  母の目がいつになく真剣で、念押しされたから「はい」と大人しくする。 「ああ、晴香さん、店員さんが困ってるからほら、デザート食べよう?」  気づけば店員が三つのデザート片手に立ち尽くしていた。
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