家族のかたち

1/2

19人が本棚に入れています
本棚に追加
/117ページ

家族のかたち

 デザートを食べながら話を聞いた。手短に落ち着いて話してくれたのは俊樹の方だった。  三人目はいないこと。  光が三歳児検診で言葉の遅れを指摘され、療育という子供の発達を支援する施設に通わせることを考えていること。  実は晴香と俊樹の二人で、そういう施設をあちこち見学していたこと。  療育施設のスタッフが保育園まで送迎してくれて、活動は午前中だから結花の生活には支障がないこと。 晴香はまだ機嫌が悪く、口数が少ないながらも時折フォローを入れていた。 大体の候補が決まり、申請を出す段階で結花に相談したこと。四者面談が終わるまで待っていたこと。  思いもよらない話に、結花は「へえ」「そうなんだ」ばかり言っていた。 「で、あんたはどう思う?」  コーヒーを飲み終えた母に聞かれて、面食らった。 「え?」 「光が療育に行くの」 「もう行くの決まってるんでしょ? なんでそんなこと聞くの」  大人はいつだって勝手に決めているじゃないか、と内心思う。すねるような気持ちがあった。 「光のためには、行かせるべきだと思う。だけどそれをあんたがどう思うかってのはまた別の話よ。できれば結花にも納得して、前向きに見守ってもらいたいっていうか。強制しているわけじゃないけど、応援してもらいたい、かな」 「応援……」  母の目が、少し潤んでいるのに結花は気づいた。さっきまで自信満々だったのにずるいと思う。  まだ事情を聞いたばかりで実感できないけど、両親の結婚を聞いた時とは違う想いを自分の胸のうちに感じる。あの時は自分しか見えていなかった。今は母の表情に、奥にひそむ不安を感じられた。なぜだか「自分でも力になれる」と確信した。  結花はできる限り、母を安心させられるよう笑顔を浮かべた。 「うん、応援するよ。光の……可愛い弟のためなら」 「ありがと」  母はにこりと笑い、「そろそろ出ましょ」と伝票を片手に立ち上がる。 「光にはこれから話すんだ。まだ意味がわからないだろうけど、環境が変わるともしかしたら夜泣きをしたり、甘えたり、かんしゃくを起こすかもしれない。受け止めきれないときに、優しく見守ってくれたら嬉しいな」 「うん、そうする」  支払いを待つ間に俊樹が言ってきた。  若い父親は家に来た時より、もっと大きくなった気がした。
/117ページ

最初のコメントを投稿しよう!

19人が本棚に入れています
本棚に追加