家族のかたち

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 あっという間に夜になる。結花は布団にくるまり、目をつぶる。考えることが、今夜も多い。  あんなに心配していた四者面談もあっという間だった。    成績のことを光のせいにされたくはなかった。今思い出しても悔しい。もっと勉強しなきゃな、と思う。それから自分を囲む壁のことを思った。  真衣とのこと、沙紀のこと、母とのこと。世間から隔離されていると思っていたのに、皆なにかしら壁はあって、囲まれた中でどうにか戦って、生きている。ふりまわされるだけじゃなくて、今結花はどんどん大きくなって、生き抜く力をつけているところで、きっと大人になる頃にはそこらへんからうじゃうじゃと、同じように悩み考えている人たちが出てきて、今度は社会という枠組みの中で生きることになる。   ――私には私の考えしかわからないから、世界の中心でどん底にいるように思っていたけど、そうじゃなかった。壁があるからと言い訳してきちんと向き合っていなかったのは私自身だった。  だって私は真衣のことだってよくわかっていなかった。お金に不自由していなくて、頭がよくて、うらやんでばかりで真衣の気持ちを置き去りにしてた。だから衝突した。仲直りできたけど、でもこれが大人だったら?   真衣とは、同じ学校の同じクラスに通っているからまだ仲直りできたんじゃないだろうか。教室の中、毎日顔を合わせて、どうしても気になって。仲直りしたいという気持ちはもちろんあった。  だけど真衣だって違うクラスに行く。大人になったら、そのまま離れてしまう人もいるかもしれない。もう二度と口を聞かない人だって。  そもそも実の父親とだって、死に別れてしまった。  自分で頭に浮かべた「死」のイメージにぞくっとする。どうしてだか、これまでの人生で一番、父親の死を実感した瞬間だった。小さい頃亡くなって、母と二人で生きることに気を取られて、四人家族になった。それについていくのに必死だったけど、ある日自分の(せい)がぷつんと途切れることもあるんだと思うと結花は恐ろしくなった。  修復可能な関係だって、死んだらそれまでだ。  唐突に松崎君の顔が浮かんだ。浮かれてばかりだけど、彼との1年後はどうなっているのか想像もつかない。    母も、俊樹も、光も、京香も。自分を含めて誰も彼もいつ終わりが来るのかわからない。怖いと思う反面、今ある絆が急に光り輝く尊いものに思える。  感情の落ち着くところがないまま、結花はいつの間にか眠っていた。  自分の背丈よりもっともっと大きな白い壁に四方を囲まれている夢を見た。じわりじわりと狭まってくるそれは怖かったけど、「外が見たい」と思って叩く。叩き続ける。びくともしない。両手を壁につく。汗が流れる。 「ねーね!」  振り向くと、光がいた。 「光」  弟は大きなお腹の上に、にこにこと笑顔を浮かべている。 「……うわっ!?」  急に壁が倒れた。一面が崩れるとまるでそれが鍵であったかのように、四方の壁はガラガラと崩れた。勢いあまって地面に四つん這いになる。 「あいたた……」 「なにやってんの、結花」  手が差し伸べられた。  見上げると真衣が微笑んでいた。 「ほら」 「ありがとう」  真衣の白い手を握って、結花は立ち上がる。いつの間にか光はいなくて、瞬きの間に周囲の景色が変わる。あの神社の境内に。  セミがうるさい。だけど、あそこで仲直りできてよかった。  目が覚めたとき、結花の頭はすっきりしていた。  頬にはうっすら涙を流した跡があった。
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