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「うーみー!」  詩織が叫ぶ。まるで子供だ。結花は思わずあたりを見回したが、視線が気になったのは数秒で、皆それぞれ遊ぶのに忙しいらしい。8月も終わりに近づいた日の午後。青い空に入道雲。UVカットのパーカー越しでも腕が熱い。帽子の下に汗をかいている。  それでも、海に来るとテンションがあがるのはなぜだろう。 「海って、青春の定番だよねぇ」  沙紀がしみじみ言う。 「なんでこんなに解放感あるんだろうね」と結花がつぶやくと、真衣がすました顔で横に並んだ。 「目の前の景色に人工物がないからじゃない?」 「真衣はシビアだね」 「いいでしょ、別に」  沙紀と真衣の会話はクールで、聞いていてひやひやする時もあるけど、当人同士はどうも思っていないらしい。楽しんでいるふしすらある。四人で話している時は皆無難な話し方をするのに、一対一になると話し方も変わる。前はそれに戸惑いもあったが、彼氏ができてから結花は自分だってそうか、と思った。相手のことが好きだから、見せたい自分も変わってくるんだろうな。  海で泳ぐ人は少なく、どちらかというと海の家や、海岸沿いのカフェに人が集まっていた。結花たち四人は人が集まっているところから少し離れて、思い思いに海を眺めていた。海の家から流れる音楽もBGMというには遠い。手頃な流木があったので腰かけて、「ここに光を連れてきたら砂浜に絵を描くかな」と結花は思って、つかの間四人でいるのに寂しくなった。それを打ち消すように波打ち際にいた詩織が走ってくる。「ねー、売店行こうよ! ソフトクリームかかき氷食べたい」と大きな声が届く。    真衣と神社で話してからしばらく経ち、そろそろ1か月が経とうとしていた。  結花は真衣と同じ塾に通うようになった。  とは言っても、真衣みたいな医大進学コースではなくて、とりあえずメインの3教科のコース。「お金のこと気にしてないでもっと本格的にやってもいいのよ」と母は言ってきて押し問答になった。結花の中には母がシングルだった頃の金銭感覚は残っていて、表向きは「生活も変わるし、慣れたいから」と言い切った。  いざ入ってみると授業も受験に特化していて得るものはあったが、自習室を使える、という利点の方が大きかった。  家ではやっぱり1階が、特に光が何をしているかが気になる。  真衣とはクラスが違い、あまり会わない。何度か見かけるが、塾にいるときの真衣はまた学校と違って表情が険しい。自習中も集中している。きっと家にいるときもそうなのだろう、しかし不思議と嫌な気はしなかった。真衣は自分と戦っている、そんな気がした。  あの日神社でもらっていた「ゴシュイン」は、自信を無くした時、不安を感じた時にもらいにいっているのだと教えてもらった。  時折、神社に行く前に話しかけられた男の子と話す姿を目にした。彼は真衣をからかっているらしかった。  真衣は面白くなさそうな顔をしていたが、たぶん、本当に嫌なら無視するだろう。後から、彼は塾でも一、二を争う頭の良さで真衣のライバルなのだと、塾で同じクラスの子に聞いた。
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