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沙紀も詩織も、それぞれ家族と夏休みを満喫しているようで写真がLINEで送られてくる。「塾に行く」と言うと「デートの予定会わなくなるなぁ」と松崎君は寂しそうだった。しかしあちらはあちらで部活の予定がつまっているらしい。どうにか夏休み最終週にデートの約束を入れて、夏休みのメインイベントはそれで終わりだと思っていた。
「夏休み中に海に行こう」とLINEグループで言い出したのは真衣だった。
「えっ水着どうしよう学校のやつ?」と詩織が大真面目に返して、沙紀からもわくわくしている猫のスタンプが送られてくる。LINEグループはひとしきり盛り上がった。
「真衣、模試とか忙しいんじゃない?」
「毎週じゃないから大丈夫。あたしだって休みは欲しいもの」
真衣はここのところ自分のことを「あたし」と言う。それが先生たちの前では決して出ない、四人でいる時だけだと気付いて結花は嬉しかった。
誰も触れなかったが、真衣はきっと思い出作りがしたいんだろう。もう夏休み。遊ぶ機会を作らないと、休み明けから真衣とは別クラスだ。
スケジュールを合わせると結局遊ぶ予定はお盆後にずれこみ、そうすると「海はいいけどクラゲが出るから泳いじゃ駄目よ」と結花の母親が言い、沙紀の祖父母もニュースで海難事故を目にしてから泳ぐことに難色を示し、どうしようと考えているうちに、「そもそも皆そんなに泳ぎたい?」と詩織からのメッセージが届いた。
「皆でランチして、海をぼけーっと見ながら話をして、買い物でもすればいいんじゃない?」
「ダイエット間に合わなかったんでしょ」
すぐさま真衣が茶化すが、詩織は取り合わない。
「世の中にこんなにおいしいものが溢れているんだから食べてあげなきゃ可哀想でしょ」と開き直る始末だった。推しのライブに行ってからというもの、「生きてるうちに楽しまなきゃ損だよね!」と言い聞かせてはグッズを買ったりおいしいものを食べたりと忙しくしている。
最終的に詩織の案でいこうと話がまとまって、今四人は海にいる。
「あっついね」
口々に言って、それぞれソフトクリームを頬張る。道路から海へと降りる広い階段に、四人は腰かけていた。どちらかに決めきれなくて選んだチョコバニラミックスが冷たく結花の喉を通っていく。
「真衣、今日は顔色いいんじゃない? 塾ばっかでもっと疲れてるかと思ってた」
沙紀に聞かれた真衣は、すでにコーン部分をかじっている。「うーん」と言ったっきり次の言葉を迷っている様子だったが、全部食べ切ってから口を開いた。
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