19人が本棚に入れています
本棚に追加
/117ページ
嫌な感じはしなかった。「カエルかぁ」と結花がつぶやいた後に、「ゲコゲコ~」と詩織がふざける。
「あ……今変な想像しちゃった」
「どしたの」
真衣は両手で頬を押さえていた。「教えてよ」と沙紀は続ける。
「その、カエルが井戸から出て他の井戸のカエルと仲良くするのもいいな……って。わぁー! ごめん自分で言ってて違和感! すごいメルヘンチック! 私じゃないみたい」
これまでにない表情。真衣の顔は真っ赤だ。
「真衣かわいい」
「うるさいよ詩織。ああ、言うんじゃなかった……」
二人のやりとりを見て、結花は微笑んでいた。中学からこんなやりとりしてたのかな。「面白いね」と沙紀に目配せすると、質問を投げられた。
「ねぇ、それに続きあるの知ってる?」
「続き?」
「『井の中の蛙、大海を知らず。されど空の青さを知る』っていうの。大海を知れば世界が広がる。でも狭い世界だからこそ深く知れることもあるんだよ」
ふざけていた真衣と詩織が静かになる。沙紀の声はやや低く、でもはっきりと空気を震わせ、皆の心に染み込む。
「私達、まだ学生だけど、大人になったらもっと世界は広く、深く広がっていくよ、きっと。楽しいよ」
沙紀の微笑みが前より素敵に見える。以前だったら自分にないものを持っている自信の表れのように見えていたかも。でも今は、自分に持っているものを素直に受け入れて、大事にしているから素敵に見えるんだと気付けた。うらやんでばかりでなくて、よかったと思う。
そして結花は、もう一つ皆に打ち明けることにした。
「ねぇ皆、今度うちにおいでよ」
「結花の家? いいの?」
「うん。両親も友達の顔見たい、って言ってる」
「友達」と言う時に真衣と目が合った。
「いいねぇ! 結花の若いお父さん見たい。生お父さん」
「生って」
詩織は目をきらきらさせている。
「あたし、光君にも会いたい」
「かわいいよ、色々やらかすけど」
つい昨日もクレヨンで落書きして、床も壁もすごいことになった話をすると三人とも「いやー自分だったら大変だけど」「人のことだと面白いわ」と好き勝手言って笑い、結花はふくれっ面になった後、やっぱり笑った。楽しかった。
最初のコメントを投稿しよう!