暴走列車は走り出す

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 そして、光。  産まれたばかりはどこもかしこもふにゃふにゃで触るのも怖いくらいだった弟は、まだ2年しか経ってないというのに、もうどこもかしこもむっちむちだ。  弟を見るたび、美術の教科書に載っていた絵画を思い出す。女神のまわりでラッパを吹いたり花びらをまき散らしたりしている天使そのままの容姿をしている。よく食べてお尻むっちり、お腹ぽっこり。  肌はすべすべで、毛穴ひとつ見当たらない。  こちらは受験と家庭環境が激変したおかげで一時期肌がすごく荒れたというのに姉の悩みなどどこ吹く風だ。  見た目は可愛いんだ、見た目は。  でも、ときどき怪獣になるんだよなぁ。  夕食(ハンバーグはけっこうおいしかった)を食べて、シャワーを浴びて、代わり映えのしない下の上くらいの顔とにらめっこ。おでこのニキビが気になるけど潰すのは我慢。ずっと見てても綺麗になるわけではないのでほどほどで切り上げる。  さて2階に上がるかと学校のバッグを持ったところで。  2階から、不審な音がした。  階段のベビーゲートが開いている。  結花は勢いよく階段をかけあがった。自室のドアが開いている。人の気配。電気をつける。  そこには光がいた。  きょとんとした顔でこちらを見つめ、 「ねーね!」と笑う。  床に転がったケータイ。  そして光が今口から離したそれは――ケータイの充電器。 「こらっ!!」  慌てて取り上げる。充電器の端子が濡れて、コードがところどころ潰れている。 「えっえっ嘘でしょ」  とっさに肩にかけたタオルで端子を拭く。ケータイを差し込む。  いつもならヴン、とかすかな音と振動がして充電のマークが画面のすみに映るのに、なんの変化もない。  やられた。  光は怒られたとわかったらしく、「ふぇーん!」と泣いている……真似をしている。よく見ると涙が出ていない。  何をしたかわかっていないのだ。  充電器をダメにされたのはこれで2回目。最初は1階で使ってる時で、ベビーゲートもあるし階段はまだ上れないだろうとタカをくくっていたのに。  結花は光をにらみつけた。 「光! 何したかわかってんの!?  ダメでしょ!!」  小さな怪獣は目を見開き、眉毛が8の字になり、下唇をつきだし、 「ゔあああー!!!」  今度こそ本格的に泣き出したのだった。
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