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「で、てめぇらはあたしの大事な時間を浪費させてまでそんなくそつまんねぇもの見せたわけだが、何か言い残すことはあるか?」
握りこぶしを作り、反対の手で包み込んで鳴らそうと力を込める。しかし、鳴らす勇気も握力もないためただの脅しのポーズになる。補うように言葉遣いを乱暴にして低く声を出すと効果てきめんだった。
「ひぃっ」と対して驚いてもないのに臭い芝居をしている。両手で顔面を覆い隠し防ごうとしていた。するとその体勢から「あ、」と離した手を見つめていた。
「まつ毛抜けた」
「本当にそんなことが遺言でいいのか?」
「ぼ、暴力反対!」
「残念だな、この世は暴力で満ちてんだよ、特に言葉のな。ガキの言う暴力よりも何倍もこひゃ!?」
脇にひんやりとした何かが入り込んできた。ぐにぐにと何かが蠢いているような感覚に身震いする。脇に力を入れつつ首だけ振り向くと、そこには祖母がいた。
「聞く相手を間違えてるんじゃないかい?」
何がと言おうとすると、さらにわきわきとくすぐられる。身をよじって手を引き抜かせようともがっしり胴を掴まれていて逃げられない。しゃがんだり進んだり飛び跳ねたり、あらゆる方法で魔の手から逃げようとしたが、一向に離れる気配もくすぐりが終わる気配もなかった。
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい」
ひたすらに謝った。何に対してかはわからないがとりあえず謝っていると「何に、ごめんなさいなんだい?」と見透かしたように痛いところをついてきた。
「言葉遣いが悪くてごめんなさい子供を脅してごめんなさい社会の闇を教えてごめんなさいー!」
とにかく思いつく限りのことを謝った。
やっと離してもらった時には肩で息をするほどくすぐられた後だった。祖母は「さ、ご飯にしよう」とガキどもを連れて行き、私はその場に一人残された。
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