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「あいつら迷惑じゃないの?」
和中心の夕食に舌鼓を打ちながら、祖母に訊いてみる。すると箸を持つ手を逆の手で下から添えながら肉じゃがを口に入れていた。
タイミングミスったと思ったが、上品に口に手を当てて「そんなことないさ」と言ってきた。
「毎日が賑やかで楽しいよ。あんたもいるし」
「うぅ! ……ごめん、私も言える立場じゃなかった」
絶賛居候中だった。仕事を辞めてからすぐに部屋を解約して満了する前に来たのでかなり急だったが、それでも快く受け入れてくれた祖母には感謝しても仕切れない。
「この世は迷惑の掛け合いで生きている。わたしが迷惑かけることだってあるし、あった。それこそあんたぐらいのときにね。だからごめん、じゃなくてありがとうにしなさいな」
「うん……ありがとう」
ご飯を一口放り込む。前までの自分で炊いたお米よりも甘く、暖かく感じる。十分に咀嚼して飲み込んでからまた話題を振る。
「それにしてももう少し私にも任せてくれていいのに。これじゃおばばの面倒が増えただけでしょ」
「なに、面倒なんて思ってないさ。あんたのことをさせてくれるだけで嬉しいってもんさ」
だし巻き卵を箸で切って掬い上げながら祖母が「それに条件として出したことをさえ全うしてくれてれば何にも言うことはないよ」と言って口に運ぶ。
「でもさ、あいつらさ……って言える立場じゃないし」
「あんただからこそ、大切なことを教えられるって思ってるよ」
「いや……私だってあいつらと同じで逃げてる身だし」
「あんたは昔っから相手にも自分に厳しかったからね」
祖母は「まったく」と少し楽しそうにしていた。箸を置いてまっすぐに私に見つめてくる。
「あんたのことだからやることはやった、でもダメで、それでも耐えようと耐えて耐えて耐えて、でもダメだった、だから逃げてきたんだろ。なら逃げた自分より、挑んで耐えてた自分をほめてあげなさい。それは誰でもできることじゃない」
泣きそうになる。まだ働いていたときの、泣いたら何もかもが決壊してぐちゃぐちゃになりそうなのとは違う。ただ嬉しいのと悔しいの感情が落ちてくるだけ。いたって単純で気持ちよかった。
「なによりそこで酒に溺れてなかっただけでもえらいよ」
祖母が仏壇のある方を顎で指す。祖父はかなりの酒飲みだったというが、私は記憶にない。まだ幼い頃に亡くなったらしく、私のことを随分と可愛がってくれたらしい。最後に恥ずかしくておちゃらけるのも祖母のいつも通りだった。
「お姉さん、頼んだよ」
再び箸を持って食事を再開する祖母を見ながら私も箸を進めた。
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