放言解放少女

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     † 「小学校低学年」 「この頃周りの人に、将来の夢は?」「と聞くと」 「野球選手」 「お花屋さん」「サッカー選手」 「ケーキ屋さん」 「など」「ちなみにお花屋さん、ケーキ屋さんって、建物になりたいのって聞いたら」 「……ビンタされた」 「子どもは容赦がない」「そんな中、俺は役者だった。なぜなら、父が劇作家だったからだ」 「よくある話だと思う」 「教師の子どもが教師になりたいだとか」「警察の子どもが警察になりたいだとか」 「例にもれず、父が憧れだった。だから、中学では、演劇部に入った。すると」 「声の出し方がなっていない!」「とか」 「滑舌をもっとちゃんとしろ!」 「とか」「頻繁に怒鳴られた」 「それはきまって夕食時、お酒を飲んでいるときにだ」 「それがだんだんとエスカレートし、父は暴力で教え込むようになった」「止めようとする母にも手をあげ」 「何度も何度も」 「殴られ」「蹴られ」 「教師には」 「あ、これですか? 」「いや、最近夜にランニングを始めて電柱にぶつかっちゃって。はい、気をつけます」 「友達には」 「次の役ってゾンビだろ? 」「今から役作りしてんの。俺、本気だから」 「こうして役に入り込みたいんだ」 「父に暴力で教えられた演技で」「父の暴力でできたあざを隠す」 「そし中学校三年の春、父がきえた」 「うれしかった」「これで痛い思いをしない」 「あざをごまかさなくていい」 「何より母が殴られずに済む」「そう思ったが」 「……母は泣いていた」 「どうして」「どうして泣いているの」 「あなた、あなたぁ……」 「どうしてとうさんを呼ぶの」「どうして」 「どうして母さんがこんな目にあうのか」 「考えた」「考えて」 「考えて考えて」 「考えた」「そして」 「……父さんのせいだ」 「気づいた」「とうさんのせいだ」 「そうだ、とうさんのせいなんだ」 「全部、全部」「とうさんのせいだ」 「とうさんの………………」  徹底的に無視を決め込むフリをして諦めるのを待っていると、不自然に静寂が訪れた。携帯から顔を上げて様子を伺うと「……あ?」と声が漏れた。  オロオロとするクリクリ坊主とニヤケ長髪の間で、ニヒル短髪が立ち尽くしている。  そしてそのまま部屋から走り去っていき、数秒後にはドアが閉まる音が聞こえた。その様子を私と同じようにただ呆然と見ていたガキどもが不安そうな顔をして互いに合わせていた。
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