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「……口悪くてクビになったの?」
「んなわけねーだろ」
なんだか自分の弱いところを見られたみたいで恥ずかしくなる。そのまま携帯を放り投げて頬杖をつく。
「……で、どうしたんだ」
祖母に頼まれたのだから仕方がない。それに少しだけ、ほんの少しだけ自分の姿と重なって見えて、情が湧いたのか、聞くだけ聞いてやろう、という気になっていた。
「なんか、その、あんだろ、色々と」
ん、と話すように促してもニヒル短髪はなんのことだかわかっていないのか、首を傾げるだけだった。仕方なく単刀直入に聞いてみる。
「なんで泣いてたんだ?」
「…………」
「……だんまりか、まぁ別にいいけど」
話したくないことなんていくらでもある。たとえガキでも同じで、むしろガキだから話したくないことなのかもしれない。
「人生の先輩からのアドバイス。自分の本音を押さえつけてるといつかぶっ壊れるぞ」
そしてこんなふうになるぞ、と現実を突きつけると「……それは、嫌だ」と正直に言いやがった。
「自分にフタなんかすんじゃねーよ。吐き出せなくて壊れる、なんて今は世の中の常識だからな」
「……お姉さんもそうだったの?」
「あ? 一緒にすんじゃねー……って言いたいところだが、まぁそうだな」
心因性嘔吐、医師からはそう伝えられた。わけもわからない状態の名称を知ってやっと自分が異常なのだと自覚したときにはもう、遅かったのだ。
「おばばもクリクリ坊主もニヤケ長髪もいない、今なら口の悪い美人だけ。チャンスだぞ、ほら」
「……悪い大人」
「親でも教師でもなんでもねぇからな。それに大人は悪くてずるくて汚くて、臆病なんだ。誰かのケツなんざふけるほど勇敢じゃねぇんだよ。ほら」
「……でも」
「わかった。じゃあ私も聞かねぇし聞こえても知らねぇ」
行動に移すのは勇気がいる。それは私からは与えてやれない。自分で踏み出すしかない。
仕方ねぇから耳を塞いでやる。しかし視線はしっかりとニヒル短髪に向ける。ただ過ぎていく時間に苛立ちは覚えない。溜め込んでいた不満も怒りも欲望も、全てを吐き出すことを待っていた。
なにより、あのクソつまんねぇことを面白がってやれるうちに、後先考えたり、現実を見るようになって馬鹿なことができなくなるその前に、思いっきりぶちかませばいい。
やがてニヒル短髪の顔に怒りが浮かんでくる。いや、悲しみか、それとも……。
ニヒル短髪はそのまま大きく口を開ける。両手を抱きしめるように前屈みで、私の耳を塞ぐ手すらどかす勢いでーー。
完
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