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聖剣の在処は昔から知っていた。というか聖剣とは思わず、誰かが捨てた採掘道具だとばかり思って放置した。
それを「これってもしかして?」と疑い始めたのは最初の御触れが出された直後。
聖剣が一向に発見されないのは当然だ。
だって私が、いの一番に抜いてしまったのだから。
仕事中、軽い気持ちで柄を引っ張ったらスルリと抜けてたちまち輝き「勇者ヨ……」と喋り出したので慌てて静かにするよう頼み込み、自宅の物入れに隠した。
――やらかした!
今更気付いても、後悔先に立たず。
私はママの教えを盛大に破ってしまった。
長生きの秘訣は、主人公にならないこと。脇役に徹すること……勇者なんて、とんでもない!
あの屈強な初代勇者だって世界大戦で受けた怪我によって短命だったのに、こっちは山菜売りだ。私が勇者になったところで魔王には勝てっこない。名乗り出ても出なくても、世界の結末は同じだ。だから……。
☆
「二代目勇者は蚯蚓横穴に住む若い女性だそうだ!」
吉報の熱に浮かされた都のお祭り騒ぎに乗じて、私は王宮の塀を乗り越え、壁をよじ登り、予め当たりを付けておいた窓から室内を覗き込んだ。
「樹耶さん。どうやって王宮に?」
「山育ちの健脚を舐めないでよね。荷々、家から聖剣を持ち出したでしょう。それ泥棒だからね!」
荷々は聖剣を抱いて頬を膨らませる。
「しかも勝手にぺらぺら喋ってくれちゃって……このままじゃ勇者になっちゃうよ!」
「ふむ。そうしたら蚯蚓横穴は、二代目勇者の縁の地として元の通り観光客で賑わいますね。あ、私もまた酒場で雇って貰えるでしょうか?」
「馬鹿。魔王に立ち向かって無事に帰れると思ってんの? それとも荷々、実は物凄く強いとか?」
「強ければパーティを追放されませんよ」
「……だよね。あんたに変な癖があるのは私も証言するから、とにかく謝り倒して、聖剣だけ渡して帰して貰おう」
「でも樹耶さん。誰かが名乗りを上げなければ世界は勇者と聖剣を探し続けます。貴方が聖剣を手にした事情も、いずれ突き止められたでしょう」
荷々はへらっと笑う。
「私に、勇者の立場を盗ませてください」
「な」
「いいでしょう?」
開いた口が塞がらなかった。盗癖もここまでくれば才能である。
この際、荷々の話に乗るのも面白いと思った。
山菜売りに抜けたのだから、聖剣は誰にでも使えるに決まっている。
「荷々……本気?」
「はい。樹耶さんが始めた勇者の物語は私がしっかり引き継いで、私のものにしますから!」
そんな清々しく微笑まれたら、何も言えることはない。
私達は固い握手を交わした。
「さよなら荷々。今までありがとう!」
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