5.勇者の話

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 ……と、何やかんやあって私は正式に二代目勇者として認められ、山菜売りの籠を下ろし、代わりに聖剣を携えて魔王討伐の旅路に立った。  山菜売りは健脚だが、腕力に欠ける。そこは腕っ節の強い仲間達が何とかしてくれるだろう。  荷々との約束を果たすため、私は旅の先々で起こる出来事を一つ残らず記憶しようと努めた。  例えば戦士育成学校(アカデミー)で落第したり、  宿屋でぼったくられたり、  酒を飲み過ぎて聖剣を紛失したり、  パーティ内恋愛で揉めたり、  魔物(モンスター)をペットにしたり、  知らない野草を食べて腹を下したり、  洞窟(ダンジョン)で遭難したり、  仲間が戦いで一人死んだり、  また一人死んだり、  また一人……  ……どれもこれも横穴に帰って荷々に話すのが待ち遠しい。  そして微妙に脚色され、あたかも自分が旅したように荷々が酒屋でぺらぺら喋るのを肴に、私は蜂蜜酒を飲む。ああ楽しみだ。  そう思えばどんな苦境も耐えられるよ。  待っててね。  荷々、店主、管理人、横穴の皆。  ママ。
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