【澄人】再会

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 だけど今日、成長しすっかりアルファらしくなった彼と再会して失態を見せてしまった。きっとがっかりしただろう。久しぶりに会った親戚のお兄さんが自分より小さくなっていて、もう甘えられる対象では無いと知ってしまったんだから――。 「夢を壊しちゃって悪いことしたな……」 ――いや、夢を見ていたのは自分の方か。  自分の総太郎に対する勘違いの初恋も、すっかり大きくなって突然現れた隆之介も、ずっと長い間見ていた夢が突然覚めたみたいな感じで気持ちの整理がつかない。  もし山岸家で自分が発情したらこの世の終わりだ、なんて昔は考えていた。だけど、実際に似たようなことが起きても「夢の終わり」みたいなものを感じただけで絶望したりはしなかった。  僕がどうなろうと山岸家はあそこにずっとあるし、隆之介が結婚して家を出ない限りあそこはいい匂いのまま――。  そう考えると、なんだか悪くない気分だった。  ◇  翌日は体調も良くなり、仕事にも出られそうだった。階下に降りてダイニングに顔を出すと母親が紅茶を入れてくれた。 「昨日は大変だったわね。今日はお仕事お休みしたら?」 「いや、大丈夫だよ。寝たらすっきりしたし」 「そう? よかった。あ、そうだ。これお父さんがあなたにって」  折り畳まれた紙片を渡されて開いてみる。  そこには角ばった文字で『また遊ぼう。隆之介』と書かれていて、LINEのIDと電話番号が記載されていた。 「うそ……」 「昨日隆之介くんに会ったんですってね。もう何年ぶりかしらねぇ」 「うん。また遊ぼうって……」 「あら、よかったじゃない。体調が気になるのもわかるけど、いつまでも家とクリニックの往復だけの人生なんてつまらないわよ」  社交的で明るい母は僕が仕事以外では半ば引きこもりみたいな生活をしていることが心配なのだ。普段からさりげなく僕が外へ出るように促そうとする人だった。 「倒れて迷惑かけたんだから、ご飯ごちそうするって言ってあげなさいよ。あなたお兄さんなんだから」 「お兄さん……? そっか……」 「そうよぉ。隆之介くん、お兄さんと年が離れてるから澄人の方にべったりだったものね。懐かしいわ」  隆之介と総太郎は母親が違う。隆之介は父親の再婚後に生まれているため、兄とはかなり年の差があった。  母は友達のいない僕に遊び相手ができることが嬉しいようだ。「今度隆之介くんを家に呼んで一緒にごはん食べるのもいいわね」なんて言いながら鼻歌交じりにテーブルに朝食を用意してくれる。 「さ、たくさん食べてお仕事もしっかり頼むわね」
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