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【隆之介】親戚のお兄さん スミくんへの初恋
子供の頃、親戚の集まりの時にたまに会うお兄さんがいた。
彼が俺―― 山岸隆之介にとって何に当たるのか、よく覚えていない。父の従兄弟の息子とか、そんなちょっと遠い親戚だったと思う。
俺が小学生の頃までは、父方の親戚が大勢集まる時に彼も必ず姿を見せていた。
彼は中学生か高校生くらいだったんじゃないかな?
親戚の集まりなんてつまらないものだけど、俺はそのお兄さんが遊んでくれるのだけが楽しみだった。彼は穏やかで優しくて、わがままを言っても全然怒ったりしなかった。
同級生と遊ぶのとは違って、こちらがちょっと甘えてもにこにこして受け入れてくれる。だから子ども扱いされてもちっとも恥ずかしくなかった。俺は彼のことを「スミくん、スミくん」と呼んでは追いかけ回していた。
だけど、お兄さんはある時から急に親戚の集まりに顔を見せなくなってしまった。
最初は、その日だけスミくんは来られなかったんだと思った。残念だったけど退屈な時間を何とか耐えた。
が、その次の集まりにもスミくんは現れなかった。
俺は父に尋ねたけど、何せそこまで親しくない相手のことで父も「わからない」と面倒くさそうに答えた。
俺は突然消えてしまった彼に対して不満を募らせた。また遊ぼうって言ったのに。せっかく一緒に使えると思って新しいおもちゃも用意してたのに。そんなことを考えて俺は怒っていた。
そしてたまに親戚の集まりがある度にスミくんのことを思い出しては、恨みがましい気分になるのだった。
俺は多分スミくんにうっすら恋してたんだと思う。じゃなければ、その後何年も親戚の集まりがある度に彼の姿を探してはがっかりする理由がない。要するに、あれが俺の初恋だった。そして、恋だと自覚する間もなくそれは終わってしまったのだ。
俺が中学生になる頃には、彼がなぜあの場に現れなくなったか理解できるようになった。
スミくんはオメガだったのだ。
この世には男女という性別の他に、アルファ、ベータ、オメガという三種類の性がある。そのうちオメガの人間は男女共に妊娠ができる。その関係でオメガの人間は定期的に自分の意思とは関係なく発情期を迎える。その際に出るフェロモンはアルファの人間を誘惑し、逆にアルファの人間の持つフェロモンによってオメガの人が酩酊状態になることもある。
後々父に聞いた話だが、スミくんはオメガで、フェロモンに過剰に反応してしまう体質らしい。だからアルファを含む集まりには出席を控えているのだ。
俺はアルファだった。
自分の性別のせいで彼と会えないのかと思うと、なんだかやるせない気分になった。
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