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【澄人】隆之介とのデート
その日僕は隆之介がくれた『また遊ぼう』というメモを何度も開いては見返していた――仕事の合間にも、家に帰ってからも。
隆之介があの頃と同じように接してくれるのが嬉しかった。もうあれっきりになるだろうと思ったのに……。
――わざわざ連絡先をくれたってことは、本当に会う気があるんだよね。
自分から人を誘うなんてほとんどしたことがなかった。だけど、母の言うようにお詫びに食事に誘うなら不自然じゃないだろう。
何度もメッセージを書いては消し、スマホと一時間以上格闘してようやく「この間は急に倒れてごめんね。お詫びになんでもごちそうするから好きな食べ物教えてください」と送信した。
送ってしまってから、やっぱり文章が変だったんじゃないかとか、具体的にお店を提案すべきだったろうかとか、上から目線過ぎたかなとひやひやした。
返事を待つのが耐えきれなくて、僕はスマホを部屋に置いてお風呂に入った。
――九歳も年下の親戚相手に僕は何をこんなにドキドキしてるんだ?
まるで初めて好きな子をデートに誘うみたいな気分だ。そんなこと、今まで一度もしたことはないけれど。
お風呂上がり、まだ返事が無くても当然だと自分に言い聞かせながらスマホを見た。すると、隆之介から返事が届いていた。
「あ……もう返事くれた」
急いでアプリを開くと『体調はもう大丈夫? 元気ならご飯行きたいな。暇な日教えて』と書いてある。僕の予定なんて、週末はいつだって空いている。
その後やり取りをして次の週末にすぐ会うことになった。
「どうしよう。勢いで今度の週末にしちゃったけど、大丈夫かな……」
いつも一人でしか出掛けない。誰かと一緒だとしたら、父か母。稀に兄と一緒に出掛けるくらいだ。家族は僕の事情をわかっているから、マスクをして俯いて歩いていても気にせずにいてくれる。
だけど、隆之介はきっと変に思うだろう。
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