きみが消える日

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 目を開けると、あの真っ白な空間だった。何度もやってきた場所。ここに来れば、里香ちゃんを救える。そんな希望に満ちた場所のはずだった。  今、そんな希望は僕には見えない。まだ里香ちゃんの首に手を掛けた感触が、両手に生々しく残っていた。頭を打ち付けて血を流していたのとは違う。階段から突き落としたり、壁に向かって突き飛ばしたのとも違う。車の往来する道に突き飛ばしたのとも違う。はっきりと、僕がこの手で里香ちゃんを終わらせた。  何が、ダメだったのだろう。何度やり直しても、里香ちゃんは僕を拒絶する。その拒絶を回避するためにどれだけ僕が必死になっても、里香ちゃんは変わらない。むしろどんどん離れていこうとする。 悲しかった。 許せなかった。 僕が初めて好きだと伝えた時、きみはとても喜んでくれたのに。 きみの全てを大事にしてきたのに。 きみが傷付くことのないように、 きみが何にも困らないように、 ずっときみを見てきたのに。 きみの全てが知りたくて、 きみを僕だけのものにしたくて、 一体どれだけの愛情を注いできたのか、きみも知らないわけじゃないだろう? なのに、きみは僕から離れようとする。 ―――気持ち悪いよ。 僕の気持ちを、僕の存在を、そんな言葉で片付けようとするきみの気持ちが僕には分からない。  頭を抱えて座り込む僕の目の前には、あのスイッチ。押せばまた、あの朝に戻ることが出来る。 ―――史くん、おはよう。 僕に向かって笑っている里香ちゃんに会える。だから何度だって迷わずスイッチを押してあの朝をやり直してきた。今だって、押しさえすればまた里香ちゃんに会える。 そう分かっているのに、押せなかった。          *  どれくらい経ったのだろう。ここに来てから過ぎた時間も、今が何時なのかも分からない。分からないまま、僕はスイッチの前でいつまでも動けずにいた。  たぶん、このスイッチを押す以外にこの真っ白な世界から出る方法はない。押せば確実にあの朝に戻ることができる。でも里香ちゃんが死んでしまうと、またこの世界に戻される。  その度に修正をしているつもりだった。里香ちゃんが離れていかないように、里香ちゃんが死んでしまう結末にならないように。でもダメだった。何度やり直しても、里香ちゃんは僕を拒絶する。あんなふうに拒んで、僕を捨てようとする。ほら今だって、思い出すだけで腸が煮えくり返りそうだ。 ―――気持ち悪いよ。 頭がおかしくなりそうだった。里香ちゃんはあんな子じゃなかった。あんな汚い言葉で人を傷付けるような子じゃない。 あれは、僕が好きだった里香ちゃんじゃない。 ···そうか。 ふと、堂々巡りだった思考に光が差す。 あんな子なら、いなくなってしまえばいい。 僕の前から消えてしまえばいい。 そうすれば僕は、こんな意味の分からない世界をいつまでも繰り返すことはなくなる。 いらない。 もう、いらない。 僕にあんな眼差しを向け、あんな言葉を投げかける彼女なんて消えてしまえば良いんだ。 永遠に、消えてしまえば良い。 僕はスイッチに手を伸ばした。
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