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36階から東京タワーを
「わぁー。降ってる。柚さん大丈夫??」
「えぇー?」
ワインバーを出た時にはチラチラしていた雪が辺りをうっすら、白く包み始めていた。柚は、飲んでも飲んでも酔えなかった。結果、かなり飲んだ。年末にスカッとしない課題を残し、それも自分ではどうにも回避できないトラブルで、納得いかない気持ちを何とか誤魔化したかった。かなり飲んで、既に正体不明であった、、、。
「タクシー拾いますね。えっと、家は三鷹の方でしたよね?道わかるかな、この間夜だったからなぁー、、、」
「いえわぁー、あそこでぇすー」
遠くに先っぽが辛うじて見える東京タワーを指差した。
「はぁー。完全に酔っ払いじゃないですかー。」
急に喉が乾いて柚は目を覚ました。
「水、みずー。」
ブランケットをはいで、起き上がりキッチンへ向かう。1DKのアパートは、住んで今年で5年目になる。不便はしないが、最近物が増えて手狭には感じていた。
(あれぇ?冷蔵庫どこー??ん?)
視界がぼんやり晴れ始めると、そこが自宅ではないことは明らかだった。まず、足元の感触。柔らかいフローリングがやや暖かい。これ、ゆかだんぼう??次にキッチン。生活感の無いシックなキッチンはアイラウンド型をしている。冷蔵庫、、、業務用かと思うほどの大きさ。
「ここ、どこ?」
見回してみればますます、自分とは別世界の居住空間が広がる。モノトーンで統一された家具。憧れてやまない間接照明。一面に広がる窓ガラスは東京タワーが遠くに見え、東京の夜景を絵画の様に嵌め込んでいた。
「まさか、ここ。」
時間は、深夜一時。見慣れた鞄に、この部屋に似つかわしく無い庶民的なスーツ。
「ここ、絶対カイ君の部屋だ。えっ、なんで?」
なんで?と問いながら、おおよそ自分が酔い潰れて、このまま一人暮らしの部屋に放り込むのはしのびないと、連れてきてくれたのだろうと察した。
冷静になり、部屋を歩いてカイを探してみる。
とりあえずは、玄関がある方へ向かってみた。いくつかドアがありノックをしたが返事がなかった。リビングへ戻り二階へ続く階段を上がる。
(えぇー、マンション二階建てって、、、。さっきベッドと勘違いしてたのはあの大きいソファだったのか、、、)
階段を上り切ると左右に二つずつドアが。一番手前のドアをノックした。
コンコン
「あっ!柚さん?起きた?」
やはり、カイの声がした。
「ご、ごめん。私酔い潰れてご迷惑を、、、。すぐ帰るから、本当ありがとう」ドア越しに柚が話す。
柚が言い終わる寸前にドアが開き、Tシャツ姿のカイが現れた。少し長い前髪がウェーブがかり、水滴がまだ垂れていた。
「なんで?なんで、帰るの?」
不意につかまれた腕の力が強くて、柚は胸が高まった。蒸気したカイが真っ直ぐ見つめてくる。
パウダールームの湿気にはピオニーに似た香りが漂い、柚はくらくらとした。
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