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真夜中にsparkling waterを
「帰っちゃうなら、今ここでキスしちゃうけどいい?」
カイは、真顔で柚を覗き込む。柚は一瞬にして顔が赤らんでいくのがわかった。ちょっとー、やめてよ、からかって!なんて軽く言えないほどカイの目に吸い込まれていた。真っ赤になってフリーズする柚を見て、カイは笑顔で聞く。
「帰らないよね?」
コクコク、と頷く柚。
「ok!じゃあ、下で待っててくれる?すぐ行く!」
パウダールームのドアを閉めた途端、柚はヘナヘナと座り込んだ。
(ちょっと待って!冗談だよね、冗談。冗談。なんかほら、アイドルって芸能人ってなんか違うんだきっと。うん、違うんだ)
と自分に言い聞かせた。
ズゴッ。不意にパウダールームのドアが開き、座り込む柚につかえて止まった。カイが顔を覗かせた。
「えっ、柚さんそこにいるの?」
「あっ、ごめん。今どくから」
「もしかしてー、待ってたの♡?」
カイはいつもの調子で戯けてくる。
「いや、ちょっとびっくりして。まだお酒残ってるみたい」
やっと立ち上がり、階段を降りる。後ろからカイもついて来る。
「柚さん、何飲む?お茶?コーヒー?えっと、ジュースはないんだよねー」
「お水で」
内心まだ気持ち穏やかでは無いが、そうは悟られない様に装った。片手に炭酸水、もう片方にビールを持ちながらカイは柚の横に座った。
「気分悪くない?」
「あっ、うん大丈夫。ずいぶん酔ってたから、心配して連れてきくれたんだよね。本当、恥ずかしい、、、」
「うん、すんごく酔ってたみたい。東京タワーを自宅だって言ってたよ」
あぁ、消えたい。後輩、しかもこんなイケメンに醜態さらしてー。そ、それにしても部屋着のカイ君て、なんでこんな色気が!?髪が濡れてるから?鎖骨が見えるから!?それともあの首にかかるタオルー!??
いやあの黒いピアスか!?
普段のカイと言えば、地味なグレーのスーツに黒縁メガネ。メガネに前髪が少しかかり、端正な顔を隠す残念な感じである。今のカイは、テレビで見る時の様に前髪をセットしたちょっとイケイケな感じでも無い。
タオルドライした髪が普段より少し無造作で、髪をかけた耳も、会社では見ない黒いピアスも、白い肌をより際立たせていたし、襟ぐりから覗く鎖骨は見ていいか迷う程美しかった。
切長な瞳、整った眉に、額。横顔が鼻筋から顎まで完璧な比率で、とにかく美しい。カッコいいとか、可愛いとかではなく、思い切り美しい。
その全てが、柚の想定外であった。
「柚さん、見て。まだ降ってる」
カイが夜景が映る窓を見た。窓の向こうは、しっとりとした雪が降り、真夜中の部屋を包んでいた。
「どうやって帰るつもりだっの?こんな雪だもん、朝まで帰らないでね」
窓から自分に視線を向けられて、柚はどうしようもなくカイを意識している自分に気付いた。
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