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ソファでYESを
窓の外はまさに、まだ静かな雪が降っている。おそらく階下は白く覆われているのだろう。あと数時間後、朝日が昇ったら一面がキラキラと輝いていたらどんなに素敵だろうか。大人になっても雪が降るとこんなに胸が騒ぐのは何故なんだろう。
「ここ、すごく暖かいね。うちのアパートとは全然違う、、、。」
「マンションだからね。機密性が高いんだよ。」
カイがキッチンで何やら用意をしている。程なくローテーブルに並んだのはフルーツと、意外にもお味噌汁。
「お味噌汁!?」
「変な時間に起きると小腹空かない?僕、お味噌汁好きなんだよね。温まるし、ローカロリーだし」
「うん、私も好き。でも私は全然作らないけど、、、、」
「自炊しないんだ?」
「だって、帰るの遅いし、気付いたらそのままスーツで寝てたりするし。余裕も、スキルもなくて。いただきます」
「いただきます」
2人で、お味噌汁を飲んだ。豆腐と油揚げのシンプルなお味噌汁。一緒にいる緊張も、しんとした静けさもほどけるように温まっていく。
「あのね、柚さん。ちょっと大事なことを聞くけれど」
「?」
柚は、まだ温かな腕を持ってカイを見る。
「えっと。すごい緊張するんだけど、、、。あのさ、、」
いつも余裕顔しか見せないカイが焦っている?
柚は、碗を置いて向き直った。
「なぁに?改まって。」
「今日、ここに勝手に連れてきてしまったけど、ずっと聞かなきゃと思って勇気なかったんだけど、、、。柚さん、、、かっ、彼氏いますか!???」
どもる口ぶりも、強張った表情も、初めて見るカイだった。しかも、久しぶりの敬語。柚は思わず吹き出した。
「えっ、緊張って!全然大したことじゃないじゃない。いないよー、もうしばらく彼氏なんていない、、、」
ちょっと残念そうに話す柚に対して、カイはふわっと笑顔になった。綺麗から、可愛いと思えてしまう笑顔だった。
「よかったーっ」発すると同時にカイはソファに背中から倒れた。
「よかったって、何よ。二十代後半のオンナが彼氏いないって危機感、わからないでしょー!!」柚は不満気にまた味噌汁を一口飲んだ。
「柚さんて、結婚願望あるの?仕事に生きるって決めてるタイプ??」
「そりゃ、普通にあるよ。いつまでとか、焦ってはいないけど良い縁があれば結婚したいし。でも仕事も出来たら続けられたらいいな」
「じゃあさ。じゃあ、彼氏にしてよ。僕のこと。で、出来たら、数年後には旦那にしてよ」
カイはソファから再び起き上がると口早に言った。
「、、、、」
やけに、自分に優しいとは思っていたがそれが好意だとは、思わなかった。
好きになられる要素も思い当たらない。
「えっ、ダメ?」
カイが柚を覗き込む。ソファに寝転んだせいで顔にかかった長めの髪を耳にかけながら。
「僕じゃ、対象外??ねぇ」
「本気な、、、の?」
「本気。ずっとこの瞬間の為にレベル上げてきたんだけど」
「レベル?」
「うん。柚さんと、僕五つ違うでしょ。だから、五つ分の社会経験を積みたかったし、年下だって理由で断られないように追いつくように、学べる知識は学んだし。この間だって、役に立ったでしょ?」
カイはキーボードを打つ仕草をして見せた。
「えっ。そんな、、、。けど、私は前にも話したけどカイ君にそこまで好きになってもらえるようなきっかけなかったと思う、、、」
「柚さん、言ったでしょ。本当に孤独だった時に、容姿や生い立ち、障害も気にせずに〈変わらず普通〉でいてくれた事が嬉しかったんだよ。そのおかげで音のある世界に戻ってこれたんだ」
カイは、柚の手を握った。
「年下だっていう理由はやめてね。あの頃みたいに僕を見て欲しい。持ってる物も、このマンションや、歌手だってことも。再会してからのこの一年の僕を普通にアリか、ナシで答えて欲しい」
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