105人が本棚に入れています
本棚に追加
カフェのテラスで朝食を
柚の窮地を瞬く間に救った海は、とても自然に彼女を気持ちの良い銀杏並木が見えるカフェへと誘った。早朝とあって肌寒いが屋外のテラス席にはパラソルヒーターがあり2人の上だけを包み込む様に温めていた。程なく、ホットサンドとカフェラテが運ばれてきたが、柚はまだ目の前にいるカイと、以前から知るカイの間で戸惑いを隠せずにいた。
「冷めちゃうよ?ほら、食べようよ」
?や対して彼の方は、至って親しげに笑顔を向けてくる。
「あっ、あのー。水瀬カイくんだよね?わかる様に説明してくれないかな、、、」
「あはは、まだびっくりしてる。昨日までだって普通に話してたじゃない!そうだよ、カイ、水瀬カイ正解。でもって、あの施設で会うのも、水瀬カイ。ついでにさ、柚さんにだけ、秘密を教えてあげる」
もうこれ以上の秘密なんてないでしょう、と柚は訝しんだ。目を少し隠すほどある、長めの前髪がサラサラと朝日に光っていた。それを両手で無造作にまとめると、カイは顔を上げた。
「見たことある顔かな?」
「、、、、!!!」
「あはは、やっぱりびっくりするよね。戻すね」
さっと一瞬でまた元の姿に戻ったけれど、柚には、その顔が忘れられなかった。それは紛れもなく、今超絶人気のロックバンドSEKAIの、ヴォーカルKAIだったからだ。
「柚さんにだけ、特別ね。あー、今まで言えてなくてやっと言えたから、スッキリー。別に隠していたわけじゃないけど、言うタイミングもなくてねー」
朝日がキラキラと秋の路面を照らす。銀杏の鮮やかな黄色が空まで金色に染めている様だった。
「あの、びっくりしすぎてちゃんと言えてなかったけど、さっきはありがとう」
やっと、いつも後輩のカイに話す様にお礼が口から出たのは、ホットサンドが冷めてカフェラテもすっかりと泡がなくなったその後だった。
「どういたしまして。柚さんの力になれるならあれくらい何でもないよ。いつでも助けてあげるよ。君が望んでくれるなら」
「ちょっと、さっきから意味が良くわからないな。私、カイくんに特別親切にしていたわけでもないし、本当にただの同僚だもの。」
「柚さんにとってはその程度でも、僕からしてみたら今の自分があるのは柚さんのおかげと思えるくらい、感謝してるから。だから」
「、、、、、。」
「隠し事も無くなったし、これからはもっと仲良くしてね!あっ、今日僕、撮影で休み取ってるんだった!先行くねっ。柚さん、今日プレゼンでしょー?せっかく作った企画書、しっかりアピールしてきてね。じゃ」
自分よりも5つも下の後輩に鮮やかに伝票をさらわれ、ようやく体が目覚めてくる時間になった。そして、今日という日が重要なプレゼンの日であり、今が既に出社時間20分前ということに気づいた。
「やばい、とっとりあえず。あとで考えよう!とにかく会社に行かなくちゃ。」
冷め切ったホットサンド(既にコールドサンド)をテイクアウトにして、柚は朝日が輝く銀杏並木を走った。
最初のコメントを投稿しよう!